-Episode11- ページ12
灯りが付いていない一軒家の前に立つ。
帳を下ろしていると低級呪霊が玄関扉から雪崩れ込んで来た。
言葉に聞こえるようなそうでもない声が耳に聞こえる。
ゆっくり手を横に上げ、手の平を握るように閉じると柄の荒い感触が手の平に感じた。
視線だけを横に向けると長年愛用している鞘の無い刀の呪具が収まっている。
もう片方の手で鍔から切先に向かって撫でるように呪力を流すと刀身に淡い紫色の靄が纏わりつく。
そして飛び掛かって来る呪霊を斬り込む。
体内から飛び出した液体が髪や頬を汚す。
玄関扉を抜けた先は、此処に住んでいた家族の生活が全て残っていた。
四人家族の写真が飾られた写真立て、花を飾る花瓶。
「お邪魔します」
小さく呟いた言葉に返事は無い。
一つ、一つ、扉を開けて行くが部屋には呪霊はいなかった。
二階に上がり突き当りの扉を開けると異臭が鼻に香る。
手探りで電気のスイッチを探し、灯りを付けた。
子供部屋か。
角に腐敗し人の形を成していない黒い塊が四つ。
それは、抱き合っている様にも見受けられる。
近づくと部屋のあちこちに繁殖していた虫達が端へと散らばった。
『カゾク…カ…ゾク…‥キレ…イ』
背後から聞こえた声に振り返るが廊下が広がっているだけで何もいない。
『ミ……ン…ナ…』
振り返って見上げると大きな口を開けた呪霊がいた。
細かな歯から垂れる涎が頬に落ち首筋へと伝う。
このまま食べられたらまたやり直せる。
そうだな。
今度は、こんな温かな家庭へと生まれ変わりたい。
姉妹もいて、友達も沢山。
放課後にコンビニでアイスを買ってゲームセンターで遊んで…。
『俺、お前嫌いだわ』
まただ。
こべりついて離れてくれない五条悟の言葉。
言った理由を知らないまま、また死んでも良いのだろうか。
言葉じゃ言い表せない複雑な感情が生まれる。
痛くもないはずなのに胸の辺りを握る。
「…あぁ、今は死にたくない」
答えなのか分からない言葉が口から出ていた。
呪霊の喉に向かって切先を突き刺すと大きな悲痛に似た叫びが耳の鼓膜を破る。
はっきりと聞こえていた音が段々と遠のく。
喉から刀を引き抜くとまた叫び声をあげた。
数歩後ろに下がり様子を伺う。
呪霊は張り付いていた天井から落ち、四人家族の元へ這いつくばりながら行く。
涙を流しながら何かを口走っているように見えるが私には何も聞こえない。
しゃがみ呪霊に触れると一瞬にして塵となり消えた。
「幸せを奪った貴方は幸せにはなれないよ」
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作者名：アルマジロ
| 作成日時：2023年8月8日 22時
