-Episode1- ページ2
耳元ではっきりと聞こえた鹿威しの音に目を覚ました。
ぼやけている視界が徐々に定まって来ると木目の天井がはっきりと見える。
頬に当たる隙間風に顔を横に倒すと丈が合っていない安いカーテンが揺れ動いていた。
肩までかかっている布団を足で退かすと冬の張りつめた寒さを感じるがベットから降りた。
提出を忘れている書類の山、食べ終わったお菓子の袋、未開封のカップラーメンが乗った机の上に乗っている潰れている煙草の箱を手に取ると何かが落ちた軽い音がしたが気にせずベランダに出る。
先住者が残した何も植わっていない縁の欠けた植木鉢を横目に年季の入ったサンダルを履いて、柵に背を預けると軋む音が小さく聞こえた。
「残り二本…か」
白い吐息と共に出た言葉に答えてくれる者はいない。
ただ、ただ、消えて行った。
箱を顔に近づけ煙草を咥える。
オイルが残り少ないライターの横車を指で回す。
何度か繰り返していると火が付くので煙草の先に近づける。
深く息を吸い込み、先程とは違う白い煙を吐き出す。
もう一度、吸い込み、吐き出すと後ろから遠くから微かな声が聞こえた。
煙草の山になっている銀色の灰皿を室外機の上から手に取り、灰を落としながら振り返ると大きく冷たい風が吹くと煙草の燃焼が早くなる。
気にせず、ベランダの手摺から下を覗くと制服を着た男二人が散りかけの桜の下を歩いていた。
真新しい制服。
新入生だろうか。
一人は、黒髪。
もう一人は、反対に真っ白。
それは、私の頭上にある雲の様に。
歩いている二人をぼんやりと眺めていると私の正面に来た。
白い髪の男が立ち止まりこちらを向くと黒髪の方も気づきこちらを向く。
互いに何も言葉を発しない。
「校舎ならそっち」
煙を吐き出しながら言う。
白い髪の男がかけているサングラスを外したその瞬間、手に持っていた煙草が指から滑り落ちた。
あまりの美しさに。
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作者名:アルマジロ | 作成日時:2023年8月8日 22時