雨露に濡れた華【森久保祥太郎】

〜20話〜 ページ21

お互いの靴音だけが路地に響く。

段々と見えて来る大通りに気持ちが少し和らぐ。

抜ければ大丈夫。

大通りに出るとすぐ目の前にタクシーがいた。

大輔さんが手を上げると扉が開きすぐ乗り込んだ。

浪川「すみません 少し急いでいるので出して貰っても良いですか？」

焦った声に運転手さんも驚いていたがすぐにタクシーは動いてくれた。

後ろを見ると先程出て来た路地から黒い帽子とマスクをした男が出て来る。

浪川「いつから」

「‥‥4週間前ぐらいです」

膝の上に乗せている手が微かに震える。

浪川「ずっと知りながら仕事してたの」

「はい」

絶対に怒られる。

事務所の社長だし。

浪川「この事を誰かに言った？」

「私の勘違いかもしれないんですけどあの人森久保さんのマネージャーさんかもしれないんです」

大輔さんが何かを言おうと口を開くと同時に眩しいライトがタクシーの中を照らす。

「「眩しいなぁ」」

運転手さんの一言。

ライトが眩しくて後ろにいる車の運転席は一切見えない。

浪川「運転手さん 近くに駅ってありますか？」

「「ありますけどお客さん何か事件とかに巻き込まれているんですか？」」

浪川「詳しい事情は言えません お願いですから駅にお願いします」

「「わ、分かりました」」

少しだけタクシーのスピードが上がる。

浪川「向こうが信号で捕まったらタクシーを降りて電車に乗り換えよう」

「はい」

暫く走行していると後ろにいた車がタイミング良く信号で捕まった。

浪川「運転手さん ここで大丈夫です ありがとうございます」

雑にお札を置いて私達はタクシーを降りる。

大輔さんに手を取られ人通りの多い道を何度も何度も右左折を繰り返す。

やっと辿り着いた駅の改札をくぐり抜け来た電車に飛び乗った。

浪川「ここまですれば流石に巻いたでしょ」

「は、はい」

乱れた息を整えながらスマホを取り出す。

祥太郎さん今どこにいる?Twitterで大輔と走ってるってファンの子が言ってた

A今 大輔さんと電車に乗って自宅に帰ってます 駅まで迎えに来てくれませんか?5分程で着きます

祥太郎さん分かった 駅降りて東出口正面に車回しとく

「大輔さん 森久保さんが迎えに来てくれるそうです」

隣にいる大輔さんに向かって言うが大輔さんの顔が今まで見たことない程怒りに満ちていた。

その視線の先にいたのは例のストーカー。

光の下で見た顔はあの時見た祥太郎さんのマネージャーさんだった。

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