-Eiro Motoki- ページ5
大丈夫だよって言った声は、震えていた。
その一言の言葉に私の頭の中には沢山の言葉が飛び交う。
何を言ったら一番いいのか、何を言えば貴方の元気な声がまた聞こえるのだろうか。
永露「Aちゃん？」
私の名前を呼ぶ声もいつもと違う。
「一旦、切るね」
永露「ん？」
分かっていない様子のまま繋がっている電話を切ってシングルベットの上に投げた上着を手に取って部屋を飛び出した。
静かな廊下を甲高いヒールの音が響き渡る。
エレベーターのボタンを押すがなかなか来る気配もないので横にある非常階段を降りた。
ロビーを抜け、自動扉が半開きの状態なのに体をねじ込ませ外に出ると冬の冷たい空気が頬を撫でる。
上着のチャックを顎下まで上げて走る。
歩道橋の階段も1段飛ばしてなるべく横断歩道を使わないように。
苦しいぐらいに息が上がる頃には目的の場所に辿り着いていた。
ずっと手に握り締めていたスマホで元稀くんに再度電話をかける。
すぐに出てくれた。
「元稀くん、部屋のカーテン開けて？」
永露「え？」
「いいから」
向こうから衣擦れの音が聞こえるので見上げる。
日付が変わりそうな時間帯で灯かりの着いている部屋は限られていたおかげで元稀くんの部屋はすぐに分かった。
耳にあてていたスマホをスピーカーにしてライトを付けて左右に振る。
永露「来てくれたの？」
「うん。言葉でどう言ったらいいか分からなくなっちゃったから」
永露「普段あんまりバレーの話しないけど今日だけは聞いてくれてありがとう」
「どういたしまして」
永露「Aちゃん。直接会いに行ってもいい？」
「んーだめ」
永露「なんで？」
「全部終わってから甘やかしたいから」
私がそう言うと微かに笑い声が聞こえた。
永露「俺は今すぐにでも抱きしめたいんだけど無理そう？」
「私もだけどだーめ」
永露「えー」
今日、ずっと1人でコートに残っていた元稀くんを見て自分の席から飛び出そうかと思った。
でも、必死に我慢した。
また強くなって欲しいから。
「元稀くん、来週も一緒に頑張ろうね」
ファイナルステージが始まる前に貰ったピンキーリングにキスを落とした。
最高な試合が出来ますようにと願いを込めて。
-Ogawa Tomohiro-→←-Nakano Yamato-
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 189人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：アルマジロ
| 作成日時：2024年3月21日 11時
