-Nakano Yamato- ページ4
弧を描いて飛んで来る青色と黄色のバレーボールは私の手元より前で落ちた。
中野「ちょっと距離足りんかったかー」
「ううん、私が1歩前に出なかったのが悪かった」
中野「Aちゃんは悪くないで？」
落ちたままのボールを拾い上げて私に渡してくれる倭くん。
「ありがとう」
両手よりも大きいボールを撫でていると頭上から笑い声が聞こえる。
どうかしたのだろうかと顔を上げると嬉しそうに目を細めて笑っている倭くんの顔があった。
素敵な笑顔。
中野「めっちゃ可愛いなって思って」
私に向けられた言葉を言う倭くんが私は可愛いと思ったが本人には伝えなかった。
「私、何て返事したんだっけな」
自分がどう返事したか忘れるぐらいに輝いていた笑顔があの日とても印象的だった。
年季の入ったサンダルを履いてベランダに出ると今朝のお天気お姉さんが言ってた通りに外は冬なのに春の暖かさ。
陽射しの眩しさに目が眩む。
腕で顔の上に傘を作るとやっと目が慣れてくる。
ベランダの手摺に肘を乗せて、見上げると青い空の中に一直線の飛行機雲があった。
柔らかな風が私の髪を乱す。
長く伸びた髪を耳にかける。
部屋の方を向くと窓の向こうに見えるのは物の1つも無い空っぽの部屋。
手摺に背を預けてポケットの中からスマホを取り出す。
表示される画面には倭くんには内緒で撮った写真が映るので指先で撫でる。
君が決めた事に私は何も言わない。
だけど倭くんがいなくなって私の心は空っぽになってしまった。
この部屋の様に…。
それ程に君は大きかったんだと気づかされた。
分かっている、分かってるけど行って欲しくなかった。
そんな気持ちを殺して送り出した私を今は褒めよう。
サンダルを脱いで部屋の中に入る。
カウンターに置かれた鍵2つを手に持って部屋を出た。
左耳に付けたピアスを指先で弾く。
「頑張れ」
戻って来た時に私だけに見せる笑顔をまた見たいから私も頑張るよ。
倭くん。
-Eiro Motoki-→←-Ogawa Tomohiro-
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作者名：アルマジロ
| 作成日時：2024年3月21日 11時
