-Ogawa Tomohiro- ページ3
私が初めて君を知ったのは大学に入学して間もない頃に連れて来られた体育館の2階ギャラリーから見下ろした時、1人だけLと書かれたビブスを着てコートの中を走り回っている姿がとても印象的だった。
相手が必死に繋いで打って来たボールも涼しい顔をして軽く上げてしまう。
そして仲間が点を取ると満面の笑みで喜ぶ。
自分が取ったボールじゃないのに。
最初は、点を取りたいとか思わないのかなって思ってたりもしたが君を知れば知るほど私は馬鹿だなって思う。
どんなに苦しい状況でも君が拾い上げたボールから流れ変わるから。
口には出さないけど私は、守護神って言葉は君のためにあるものなんじゃないかっていつも心の中で思っている。
それぐらいにコートの中に立つ君の背中は大きい。
小川「アイスでよかった？」
「うん、ありがとう」
透明なカップに入ったコーヒーを受け取る。
「何時のフライト？」
小川「1時間後ぐらいだったかな」
滑走路が見える席に横並びになって座った。
ゆっくりと移動して行く飛行機達をコーヒーを飲みながら眺める。
「不思議な感覚？」
横を見ると同じようにストローに口を付けてカフェオレを飲む小川くんの姿があった。
上下に揺れる喉仏を見ると可愛らしい顔をしてるけどこの人も男の人なんだなってなる。
小川「特に何も思わない」
その返答はとても小川くんらしくてつい笑いが零れてしまう。
「ファンの人は寂しいとか言ってるんじゃ？」
小川「別に一生海外でバレーするとは言ってない」
「小川くんは相変わらず辛辣ですねー」
小川「寂しいとか思ってんの？」
「誰が？」
小川「Aが」
「寂しい…か。私にはあまり縁の無い言葉かな」
カップの周りに付いた水滴が垂れ私の指先を濡らす。
「コートの中に立つ小川智大には興味があるだけで小川智大自身には全く興味が無い」
今度は、小川くんが笑う。
小川「ほんと生意気な後輩」
「今に始まったことじゃないですよ小川先輩」
目を細めて睨まれるが気にせずにコーヒーを飲む。
小川「帰って来る日また言うわ」
頭の上に手が乗ると隣に座っていた小川さんが立つ。
「また」
小川「ん」
キャリーケースを持って去って行ってしまう背中はやっぱり大きいな。
帰って来たら少し、ほんの少しだけ小川智大という人間に興味を抱いてみようか。
近くて遠い先輩に。
出国前の最後どうして私に会ってくれたのかが知りたくなった。
まずは行ってらっしゃい、守護神。
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作者名：アルマジロ
| 作成日時：2024年3月21日 11時
