-Kenta Ichikawa- ページ1
穏やかで暖かみのある橙色の夕日を背景に運転する姿を車内に流れる音楽を聴きながら盗み見る。
去年の誕生日プレゼントで渡したサングラスをかけた綺麗な横顔。
その白い肌をつい触りたくなる衝動に駆られるが運転中邪魔は出来ないので我慢していると車がゆっくりと停止する。
赤信号で止まったのだ。
すぐに盗み見を辞め、窓からの景色を眺める。
市川「綺麗だね」
「うん、とっても綺麗」
普段から私達の会話は素っ気ないものばかりだ。
他者から見たら喧嘩をしたカップルだと勘違いされることもあったり。
まぁ、当の私達の気持ちはお互いにちゃんと言葉に出さなくても伝わっているので他者から受ける心配の眼差しは私達には効果は無い。
市川「夜ご飯は何が食べたい？」
「健太くんが作るパスタが食べたい」
市川「前もパスタじゃなかった？」
「あー確かにパスタだったかも」
市川「別のにしようか」
「我が儘言っても？」
市川「どうぞ」
「パスタがいいな」
景色を見ていた視線を運転席に座る健太くんに向けるとサングラスの隙間から見える瞳と合う。
ゆっくりと口角が上がると優しく微笑みが浮かぶ。
試合の時に見る健太くんの笑みとは違う私だけが知っている顔に胸が愛おしい気持ちで苦しくなる。
市川「味は？」
「健太くんは何味が食べたい？」
市川「Aちゃんが食べたいの当てる」
「ちょっと考えるから時間下さい」
市川「だめ」
「10秒！10秒で考えるから」
市川「10秒ね」
小さい子みたいに隣で10を数える健太くん。
ゆっくりと数えてくれるのは彼の優しさでもある。
市川「10。考えた？」
「うん」
市川「そうだなー。トマトクリーム」
「おしい。ペペロンチーノ」
市川「掠ってもないじゃんか」
「残念」
市川「両方、作る？」
「トマトクリームの口になったからトマトクリームがいいな」
市川「ん」
信号が青になると健太くんの視線は前を向いてしまうので私も前を向く。
「健太くん」
市川「アイス食べたいでしょ」
「…正解」
市川「よしっ」
ガッツポーズする健太くんに口元が綻んだ。
今日は、特別に高いアイスを食べようね。
会っていられる残りの時間を有意義にするために。
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作者名：アルマジロ
| 作成日時：2024年3月21日 11時
