30話 ページ32
そこで視点を変えて、澪奈が巻き込まれた傷害事件について調べることにした。
この傷害事件は、甲斐が関係していて
警察沙汰にもなっている結構な事件だ。
澪奈との会話を思い出す。
あれは帰り道。
まだ夏服を着ていた時のことだ。
部活を終えた私の喉は少し枯れて、
澪奈の髪の毛はじっとり濡れていた。
部活のことを話してくる澪奈が黙っているのは珍しいことだ。
顔を覗き込み、話しかける。
「どうしたの?澪奈、元気ないよ?」
「……あ、うん…昨日の夜に甲斐君が傷害事件起こして警察沙汰になった、って
先生が言ってたでしょ?
あれ……実は私も関わってたの」
「え?!うそ、怪我は?!大丈夫だったの?!」
「ううん!大丈夫、甲斐君が助けてくれたから…」
「……甲斐君が?」
「変な人達に連れ込まれそうになったんだけど……その時甲斐君が立ち向かって
逃げろ、って言ってくれて」
この時私は僅かな疑問を抱いていた。
担任が言っていた傷害事件とは、廃工場で起きていた筈だ。
昔から不良達の喧嘩が絶えなくて、人は夜だけじゃなく昼間も避けて通ると言われている。
そんな危険な場所に、澪奈は何故わざわざ行ったのだろうか?
「……ねぇ、ちょっと疑問なんだけど」
「なに?」
「なんでそんな危ないところに行ったの?」
そう聞くと澪奈は少し目を泳がせてから
言いにくそうに「甲斐君に呼び出されて」と呟いた。
事の顛末はこうだ。
澪奈は甲斐君の”夜、廃工場に来れば
茅野と大河の悪口を言うのをやめてやる”という口車に乗せられ、言われた通りにしたのだという。
「……そんなの別にいいのに…」
「私が気にするの。大事な友達のこと悪く言われたら気分悪いし……」
「でも私は、澪奈が傷付いたらもっと嫌だよ」
そう言うと澪奈は俯いて睫毛を震わせた。
小さく動いた唇が、ごめん…とか細く呟く。
「とにかく!もうそんな危ないことには首を突っ込まないこと!
悩んだ時は ”親友” の私に相談すること!いい?」
「うん!」
澪奈は力強く頷いた。
その細い手に自分の指を絡める。
私達は手を繋いで歩き出した。
正門に差し掛かる。
周りの平凡な生徒達がヒソヒソ話すのが聞こえる。
「やば、演劇部エースと水泳部エースが一緒に帰ってる」
「えっめっちゃ美人じゃん!あれが噂の大河さんと景山さん?」
私は優越感に浸っていた。
生まれつき持った承認欲求がどんどん満たされていくのを感じていた。
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理音(プロフ) - 続き気になります!更新楽しみにしています!応援してます!! (2022年8月23日 17時) (レス) id: d2e2ccbd11 (このIDを非表示/違反報告)
葉紅(プロフ) - もう更新しないんでしょうか?すごく面白いので続きが見たいです。続編と物語の更新楽しみにして待っています (2020年9月27日 0時) (レス) id: 915a610475 (このIDを非表示/違反報告)
蒼炎 - ヤバイですね!まさかの共犯になるなんて…!面白いです!更新待ってます! (2020年1月24日 23時) (レス) id: 874e279780 (このIDを非表示/違反報告)
ちーかま - すっご.....。作者様、絶対頭良いやん.....。 (2019年3月16日 10時) (レス) id: 8f9925b559 (このIDを非表示/違反報告)
ナナたん - 超大作ですね! (2019年3月15日 20時) (レス) id: 0ab40017a4 (このIDを非表示/違反報告)
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