虚構に聳える摩天楼【d! 短編集】 (ページ3)

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猫の憂鬱ページ3

ピンポーンとインターホンが鳴った。時刻は23時。

十中八九彼だ。特に警戒することなく玄関を開ける。

瞬間、覆いかぶさる影。

「俺以外やったらどうするつもりやってん」

「んー？」

「……はぁ」

ばたんと後ろ手にドアが閉められた。のしかかってくる体温は幾分か低くて、秋の夜は寒いんだな、と人ごとのように思う。

つん、と鼻をつく鉄のにおい。またどこかでやり合って、高ぶったまま来ちゃったのかなー、なんて考えながらされるがままだ。

首に茶色いくせ毛が当たってくすぐったい。

「ねー？向こう行こ」

「ん……」

離れてくれないから後ろ歩き出来引きずる。人を駄目にするクッションのあることろまで来るとそのまま二人で倒れ込んだ。ぽすん、と背中に当たる感覚が心地いい。

「怪我は？」

「……手首ひねった」

「ん」

いつも手の届く範囲においてある救急箱を手繰り寄せて、湿布を取り出す。少しだけ、手当をしやすいように私と彼の間に隙間が空いた。

長袖をまくって、ちょっと熱をもって赤くなっている部分に張り付けた。

手当が終わると、またすぐにその隙間はゼロになる。

ここまで甘えてくることは珍しい。痛いはずの左手も使って、私にすがるように抱き着いている。その表情は見えない。