虚構に聳える摩天楼【d! 短編集】 (ページ19)

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その足で、教えてもらった住所に行った。
ついでに知らないから、名前も教えてもらった。猿にすごい顔されて腹立ったけど。

「……ここか」

表札に“南”の文字。
インターフォンを押そうとした時、横から声がかかった。

「あら？内に何か御用かしら？」

あいつによく似た、女の人。多分、母親。

「あ、えと、お、俺、Aさんにこれ、届けに……」

「もしかして、希くんかしら？」

「え……」

一瞬頭が真っ白になって、心臓がはねた。
俺はここらじゃなの知れた不良グループでも、かなり乱暴な方で、知っていても不思議じゃない。

「……はい」

その一言を言うのが、ただひたすらに怖かった。

そんな俺の不安とは裏腹に、どんどん笑顔になっていく女の人。

「まぁ！会ってみたかったのよ！さ、あがってあがってっ」

予想外の反応で拍子抜けする。

あれよあれよとリビングらしき部屋に通されて、目の前には湯気の上がるお茶と笑顔の女の人。

「これ、ありがとね」

「あ、はい」

渡されたのはあの日貸したパーカー。しっかりクリーニングまでされてた。

「実はね、希くんにお礼を言いたかったの」

「……え？」

お礼？

「娘のAは、まぁ……知ってると思うけどいじめられてるの。私たちにも先生にもなぜいじめられてるのかの理由はだんまりだし。でもあんまり聞くと、あの子を追い詰めることになるから」

こういう人を、世間一般的に良いお母さんって言うんやろうなって思った。

でも、とその先にも言葉は続いていく。