星紡ぎの魔女 ページ1
『死んだ人はね、お星様になって、お空から見守ってくれているのよ』
＿＿なんて子供騙しは、強ち間違っていない。
逢魔時、太陽が沈む瞬間を合図に、街のあちこちから小さな光が浮き上がる。やがてそれらは丘の上に集まると、一筋の光となって迷い無く、星空へと上っていく。
そう、迷うことはない。“星紡ぎの魔女”が、彼らの導となり、背を押してあげるから。
「ホンマに、星紡ぎの魔女なんやね」
「何度もそう言っているでしょう？」
一仕事を終えた彼女の背中に話しかける男が一人。
もう6回目にもなる光景に目を細めた。見慣れてもいい頃なのに、6回目の今日も、初見と同じように感動し、この世のものではないかのように美しく思える。
「さ、今日もこれでおしまい。お部屋に戻んなさい」
魔女は今日も同じ言葉を漏らす。
でも、知っている。わかっている。
「ええやんか。今日くらい」
もうちょっと居たって、と口を尖らせた。
魔女は振り返って驚いた顔を見せたが、すぐに背を向けた。
「……よく、気がついたわね」
「アンタが気にすることないわ。医者からずっと言われてきたことやし……もう、長ないって」
6日前、何気なく窓から見ていた丘の麓、眼下に広がる街とそれを覆う空が、やけに美しかった。
気づけばきていた屋上で、彼女に会ったのだ。
これがあの世かと、そのときは本気で思った。でも違った。
自分は死の淵、あの世とこの世の境にいるのだと。
死期が近いのだと。
目の前にいるのは子供の頃に聞いた、この街に伝わる“星紡ぎの魔女”だと。
「なぁ、俺の最期のお願い、聞いてくれへん？」
「私の正体を解ってもなお、貴方は私から逃げないのね」
「アンタが見えとる時点で、俺の逃げ場はこの世にはないからな」
魔女は振り返った。大きな黒い鎌が重そうに、彼女の腕の中にある。
「……私にできることなら、聞いてあげる。運命から逃げない、貴方へ。私からの手向けとして」
その言葉を待っていた、と言わんばかりに口が弧を描いた。ちょうど、今日の夜に浮かぶ三日月の様に。眼鏡のそこに沈んでいる瞳が、死の淵に立ってもなお、恐れを知らず輝く。
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作者名：mituba | 作成日時：2023年10月16日 15時
