十夜目 ページ12
結局会議は終了になった。
来るだけ無駄だった。
どうせアメリカ一人では何もできないのだから。
今の世界はもう一人では生きていけないのだから。
「ヴェー!ドイツー!ドイツー!」
「ドイツさん、お疲れ様です。」
ロビーの方のソファに座って微笑んでいるのは、かつての戦友、友人。
「イタリアと日本か。久々だな。」
「会議中はなかなか話すことができませんでしたから。」
「日本ったらずっとアメリカにつきっきりだったし、俺皆の雰囲気怖くて泣いちゃいそうだったんだよ!」
「お前はもうすこし真面目にだな…」
かつてと変わらない会話をしたくても、微妙な壁が俺達を阻む。
小さな壁。
俺には超える勇気はない。
俺はまだ、こいつらの事を仲間だと思っている。
実質的な同盟関係が絶たれようと、なんだろうと。
この後日本に喫茶店でも行こうか、と誘われたが断った。
午後は予定があった、と『嘘』をついて。
___
家に帰国後、あてもなくぶらぶらと街を歩いていた。
前に比べて活性化した街。
体調も大分安定してきたのは国民の力のおかげなのだろう。
この前上司にボンに引っ越せと言われたが、まだ引っ越してはいない。
まだベルリンにいたい、と言う思いが俺を邪魔する。
「…ね、…ら、し…ふふっ。」
人気のない路地。そこの角で嬉しそうな声が聞こえる。
東と西を遮る小さくも大きな壁。
幼い男の子を抱く、金髪の女性が壁の向こうの老夫婦と会話していた。
「あらま…なんて可愛らしいのかしら。ほら、ばあばよ。」
「ばーば?」
向こうで女性が微笑みながら孫を見る。
孫はきょとんとしながら女性を見るが、すぐに笑って「ばあば!」と叫んだ。
ただ、その声は少し大きすぎる。
「少し、いいか。」
俺は子供を抱く女性の肩を軽くつかんだ。
女性は顔を強張らせたがすぐに「密告目的ではない」と言うと、彼女はゆっくりと落ち着いた表情に戻った。
「ごめんなさい、どうしても義母たちに孫の顔を見せたくて。」
東西は行き来が制限されている。もしも許可なく行こうものなら…東の場合は確実に死が待っている。
ただ女性は老夫婦にどうしても見せたかった。
その気持ちは少しだけわかる。
しかし、老夫婦はぱくぱくと口を開いたり閉じたりを繰り返していた。
「ライヒ…ライヒなのですか?貴方はあの…ライヒなのですね!」
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