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「そうか。俺は優しい兄でいられているのか」
「…?うん。アルは私の優しい兄のままだよ」
「そろそろ、時間だ。母さんに会いに行くからもう行かなくては」
頭を撫でていた手を離す。
「もう行くの?…わかったけど、また会いに来てくれるよね?」
「ああ。次、休暇が取れたらすぐにでもフランスに飛んでいくよ」
顔も優しい。それはアリアを安心させる。大好きな兄の表情が彼女は大好きなのだ。
「それじゃあまたな、アリア」
「あ、待ってアル!」
アリアが慌ててベッドから何やら二枚封筒を出す。可愛らしい封筒の中身は恐らく手紙だろう。
「これ…一枚はアルのために書いたの。日本語の練習も兼ねているから間違っている所があったら指摘してほしいな」
「本当か!わかった。日本語を勉強しているのか?」
「うん。あと、もう一枚は青葉にお願いしていい?」
『青葉』
その言葉を聞いた瞬間、心の奥でまた波が騒めきだした。きっと彼女が日本語を勉強しているのだって、青葉のためになのだろう。だがそれでも笑顔は崩さない。ここで崩せば今まで彼女に築いた信頼関係が一瞬で無駄になってしまう。
「ああ、わかった。必ず答えよう」
「本当!?お願いね、アル!それじゃあ、またね」
「またな、アリア」
*
病室の扉を閉めた。そして彼は笑顔を崩し、一瞬で素の表情に戻る。そして、右親指の爪を一気にかじったのだ。
「白峰…青葉…」
やるせない思いだけがそこに漂う。「優しく頼れる兄」を演じきっただけでも褒めてほしいくらいだ。
手紙の中を見る。最初に開けたのは自分宛の手紙ではなく、白峰宛の手紙だった。
まだ慣れない日本語を書いたのか、間違っている漢字や文法が散乱していた。それでも白峰への思いの詰まった手紙。脳裏にとても満たされたような顔をした白峰が浮かぶ。
コートの胸ポケットに手紙を入れ、部屋に戻る。この手紙の処遇はどうしようか。どこに検閲を入れようか。
白峰青葉を絶対に幸福にさせるな。呪いと不幸が奴には一番似合う。
「白峰青葉…お前は俺が殺す」
本当の意味では殺す気はない。彼の道連れで自分も犯罪者になるつもりはないからだ。だが、アリアを奴の手の届かない場所まで遠ざけたら?彼を支えていた唯一のものが無くなり、奴は絶望のどん底に落とされる。その姿はなんと素敵なことなのだろう!
俺の名前はアルテュール=カルサティ。
これは我が妹、アリアを壊した罪人、白峰を俺が断罪する話でもある。
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斗夢(プロフ) - ミファさん» こんなに早く返信返してくれるなんてありがとうございます!小説の更新頑張ってください! (2018年7月22日 23時) (レス) id: ca4e952387 (このIDを非表示/違反報告)
ミファ(プロフ) - 斗夢さん» 申し訳ありません。CSSを差し替えさせてもらいました。 (2018年7月22日 22時) (レス) id: 9e5279a20b (このIDを非表示/違反報告)
斗夢(プロフ) - ごめんなさい、失礼かと思いますが、ちょっと字が見辛いです。改善をお願いしてもよろしいでしょうか。 (2018年7月22日 22時) (レス) id: ca4e952387 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ミファ | 作成日時:2018年7月22日 22時