≒疑問 ページ19
「え、重岡早退したんですか?」
「うぅん。なんかひどい顔色でねぇ。熱もあったから。本人は知恵熱です!とか言ってたけど、出張明けの疲れもあるだろうし早退してもらったんだよ」
部長が珍しく困った顔をしていた。
さもありなん。
重岡大毅と言えば、健康第一がモットーの男である。
「疲れか…私のせいなのかな」
やっぱり今日の重岡はおかしかった。原因として考えられるのはやはり、昨夜の私の記憶がない時間だろう。
重岡のことが気がかりなまま定時を迎えた。
「おつかれでーす」
さっさとデスクを立ち、エレベーターに向かうと、エレベーターの横で壁にもたれているイケメンがいた。私を見つけると、ふにゃっと笑う。
藤井流星。
社で屈指のプレイボーイ。
…危険。
身を翻し、階段に向かうと、藤井くんは長身を生かして通せんぼをしてきた。
「何か御用ですか」
じとっと睨み上げると、彼はおもむろに一枚のメモ用紙を取り出した。
「しげの住所っす」
「…はい?」
「お見舞い、行かんの?」
…行かんの?って、なんでそんな彼女みたいなことを私がしてやらねばならないのだろう。
そう疑問に思ったが、それは藤井くんの悪魔のささやきによって木っ端みじんに。
「しげがおかしくなった理由、知りたない?」
知りたい。
ものすごく、知りたい。
そろそろとメモ用紙に手を伸ばした私だったが、
「…交換条件は」
藤井くんはへらーっと笑った。
「営業部は怖いわぁ。そんな全部が全部お見通しって顔せんでも」
なんだ。一晩相手しろとかそういうんじゃないだろうな。
「一晩夜の相手どう?」
…期待を裏切らないクズ男っぷりだ。
断ろうと口を開いた。
が、
「って言いたいところやけど、重岡に呪い殺される未来しか見えんから、やめとくわ」
重岡…。
この場にいなくても男除けになるとは。
「代わりに、お見舞い行ってなにがあったか報告してくれればいいわ」
「いいの?」
「まぁ、重岡は一応友達だし」
別に、重岡のことがそんなに気になるわけじゃない。
もっと知りたいだとか思ってるわけじゃない。
ただ、私のせいだったらって借りを作りたくないだけで…
そんな風に心の中でぐちぐち言っていると、藤井くんはひらーっと手を振っていってしまった。
マイペースな人だ。
思ったよりクズ人間ではないのかもしれない。
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作者名:ひめりんご | 作成日時:2020年4月14日 1時