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その日から、私は“恨めしい鬼を根絶させたい”思いと、“鬼を殺したくない”という思いに挟まれて、鬼を斬れなくなった。
けれどそのせいで、目の前にある命は消えていく。
私は鬼を斬らなければならないのだ___。
____________
「___それから私は、泣きながら鬼を斬るようになったんです。
なるべく痛まない方法で、それぞれの鬼にあわせて頸を斬って…私は十分優しいんだと、錯覚するために」
水澪は泣いていた。目から零れた涙が、水澪の白い羽織に模様を作る。
「涙の呼吸という名前は、自分を守るために付けただけだったんです。
私は戦っているのだと錯覚するために。私は悪くないと、思うために」
苦しそうに言葉を絞り出す水澪。
「私は誰も…誰も殺していないと思うために…」
嗚咽が響く。
「それでも」、と水澪は続けた。
「それでも、事実は消えませんでした…親族を全員死なせてしまったことも、何人もの鬼の頸を、ただ何も考えずに斬ってしまったことも…」
俺が水澪の頭に手を置くと、水澪はわっと涙を零した。「風柱様」、と俺を呼ぶ。
「風柱様…私はどうすれば良いんでしょう…!このまま鬼を斬っても意味がない…私が鬼を斬るのが遅いせいで、風柱様も手負いにさせてしまった…亮太郎のお母さんを死なせてしまった…!」
うう、と整った顔を濡らし続ける水澪を俺は抱きしめた。
「昨日も言っただろォ…お前は何も悪くねェ」
助けてと言うように、俺に必死に縋り付く水澪。
「錯覚じゃねェ。お前は優しいんだ…普通の奴だったら鬼のために泣いたりしねェ。お前は優しくて、悪くなくて、戦ってんだァ」
「かぜ、ばしらさま…」
水澪の華奢な体を強く強く抱きしめる。胸元にあたる温かい感触が、たまらなく愛おしかった。
「お前は間違ってねェ」
「っ!」
「お前は泣かなくていい。泣かなくていいんだァ…」
「っう…ううう…!」
___泣くなァ。お前は泣かなくていいんだ…笑ってろォ…。
お前が戦いたくねえんなら、俺がその分鬼を斬ってやる。
______好きだ、水澪。
お前のことが、好きだ。
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ゆうきりさ(プロフ) - ツナミカワさん» ご指摘ありがとうございます!キャラの名前を間違えるとは…本当にすみませんこの駄作者…!直しますね! (2020年9月27日 7時) (レス) id: a3d7f766b2 (このIDを非表示/違反報告)
ツナミカワ(プロフ) - 序章から申し訳ないですが富岡の漢字違いますよ正確には『冨岡』です (2020年9月26日 23時) (レス) id: f27e09d3f8 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ゆうきりさ | 作成日時:2020年8月22日 17時