聴きたい、感じたい。 No.15 (ページ30)

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最終診断　1 ページ30

(F64 side)

Aと結衣さんがロサンゼルスへ行って約2ヵ月。僕と遥輝の元に2つのニュースが入ってきた。

ひとつは結衣さんが9月5日に出産した。3000グラムほどの男の子で、手の指が長いって話を聞いて、遥輝に似たのか？と思える。
動画や写真を見て可愛いなぁとロッカー内で話す時間は、優勝争いをしているチーム内で別の力をくれている。遥輝は、札幌ドームでヒーローになったら息子が産まれた事を発表する。それまでは、記者やOB解説者にも言わない事をみんなに告げていた。遥輝がヒーローになる日は、遠い未来の話ではない。遠征が続いて札幌に帰るまで時間がかかっているだけで、その日が来るのは近いと思っているが…。

もうひとつは、Aの検査についての中間報告。札幌での主治医・結城先生を通して僕に連絡が来た。
Aが見えなくなったのは、外的要因ではなく内面からの影響。これは以前から指摘されていた事だった。検査を進めているうちに、ある記憶と一緒に視力を封じてしまったのではないか、という仮説があるという。記憶を封じたいからと視神経にも攻撃をする例は、まれにあるそうだ。

札幌に戻り試合のなかった9月13日、詳しく話を聞くために、僕と遥輝は結城先生に会う事にした。

結城：Aちゃんが封じている記憶を呼び戻す事が、見えるようになる事に繋がるかもしれません。この仮定が成り立つ場合に必要な治療は、手術ではないと。残りの検査期間を薬で眠らせて、谷口さんの到着を待って、Aちゃんの深層心理に語り掛け目覚めさせる。そうする事で何らかの答えが出る可能性があると、連絡がありました。
　ただ、長期で眠らせるのは家族の承認が必要です。お母さんとお姉さんは、谷口さんが最終決定者で、貴方の意志に従うとのことです。

F64：何らかの答え…とは？

結城：精神的な不安がなくなれば、目覚めた時には視力が回復している可能性がある、という事です。

F7：しかし、長期で眠らせるリスクがある、と？

結城：筋力は確実に落ちます。生命維持に必要な栄養は点滴で補充しますが、最初は自分の身体を自らの足で支えられない。1ヶ月眠れば、支えもなく歩けるまでには3ヶ月程度必要でしょう。

F64：見えるようになっても、ならなくても。目覚めて3ヶ月は向こうにいる必要がある？

結城：飛行機移動が約12時間。長時間座る体力は戻らないと厳しいです。車椅子で移動すると考えても、2週間は必要かと思います。

F64：2週間…ですか。
　