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8回裏、1アウト2塁。得点は3対1で僕らが勝っている。
僕の仕事は、2塁ランナーの優心をホームに帰す事。最悪でも3塁に進める。そのためには逆方向はダメだと、自分に言い聞かせる。

そんな時に聴こえた、Aの声。


A:…負けないで…。


…自分に負けないで、って事かな。うん、僕は負けない!Aに活躍しているのを感じてもらう為に、もう1本ヒットを打つ!

1球、2球とボールが続く。3球目は待てのサインが出たので、ストライクだったが見送る。4球目はフォークに手が出てしまい空振り。
5球目、真ん中より少し低めのストレートを、センターへのヒットにした。僕は1塁にしか行けなかったが、優心がホームまで帰ってきて、4点目が入った!
後続の2人が倒れて僕はホームには帰れなかったが、貴重な点がとれて、本当によかった。

最終回、9回表のピッチャーは大翔が立った。僕と同じ歳の、北海道出身の右腕。
2アウトまでは難なくとって、最後の1人。僕の守備範囲後方にフライが飛んでくる。フェンス際でジャンプして捕球し、ここで本来はゲームセットになるが。練習試合特別ルールで、9回裏ファイターズの攻撃がある。ウィニングボールになる球をベンチに持ち帰り、監督に手渡した。

特別ルールの9回裏、相手チームは前年までメジャーで投げていた左腕が登板する。4番の清宮が三振、5番の泰示さんがレフト前ヒットで出るも、6番の横尾がセカンドゴロ、ダブルプレーになりゲームセット。

結局僕は、4点全てに絡む活躍で、対外試合初戦を終えた。


試合終了後、広報レポートの取材を受けた後で、観客席を見る。Aがフェンス際で一生懸命に僕の気配を探しているのかな?目を閉じて、耳を澄ませるような姿勢でいた。
まわりにカメラも記者もいない事を確認して、小さな声で話かける。


F64:A、応援ありがとう。

A:…ゆうやさん。大活躍だったね…。

F64:泣かないで。僕はそこに行けない。ごめんね。

A:これは嬉し涙。大丈夫…。


ふと思いついて指笛を吹く。遥輝なら僕の指笛の音だと気づくだろう。
すぐに気づいた遥輝は、Aの隣に立つ。


F64:これ、持ってて!


お尻のポケットに入れている、走塁用の手袋を投げ入れた。
北海道に帰るまで、僕たちは触れる事ができない。
そんなAへ、僕の匂いがするプレゼントを贈った。

遥輝が掴んでAに渡した手袋は、Aを泣き顔から笑顔に変えた。
その笑顔は、僕の心の中に記憶された。
 

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作者名:梨瑠(Riru) | 作成日時:2018年8月7日 22時

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