愛のかたち。【松野千冬】 (ページ48)

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｢ねえ、千冬くん。｣

神社からの帰り道
あれから全く喋らなくなった千冬くんに声を掛ける
掴まれている右手は少し痛い

｢ねえってば。千冬くん、どうかしたの？｣

返事は無い
そうこうしているうちに私の家に着いてしまった

『あの、送ってくれてありがとう。...えっと、少し休んでいく？』

ずっと無言で下を見ている彼に問い掛ける

彼が顔も上げないまま黙ってゆっくりと頷いたのを確認して家の鍵を開けて中へと招き入れた

中に入るとすぐに強く強く抱きしめられる
そしてすぐに彼の甘くて爽やかな香りで包まれる

千｢...俺以外の奴とあんまり楽しそうに話さないで。｣

とても小さな声で、でも確かにそう言った

『え...』

驚いた。本当にただ驚いた

私が武道くんと話していたから不機嫌だったんだ
しばらく目を見開いたまま言葉も発せないでいると、急に抱きしめられていた身体が離された

私の驚きによって見開かれた瞳と彼の申し訳ないような瞳が合わさって

千｢...ごめん。俺、こんなこと言っていい立場じゃないのに。｣

もう一度、ごめんと小さな声で言われる

なんで、謝るの
私、別に嫌じゃなかったのに
むしろ、すごく
...すごく、なんだ

千冬くんの私と武道くんに対するこれは恐らく“嫉妬”と言うもので

好意を寄せる異性に対して持ち合わせるもので

私にとっては向けて欲しくない、いらないもののはずで

なのに何でだろう

なんで、私は今

とても嬉しいと思っているの

嬉しくて嬉しくて、涙が出そうになる

『謝らないで。千冬くんは、悪くない。』

酷く混乱してそんなことしか言ってあげられない

『ねえ、千冬くん。』

今はただ、

『もっと強く抱きしめて。』

頭を空っぽにしたかった

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