こっち向いて、私を見て【九井一】

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「私、髪を切る」

「は、何言ってんだよ」



万次郎の家に行けば、万次郎とエマだけではなく圭介とドラケンもいた。万次郎の部屋のソファーに座り大きなため息と一緒にそう宣言すれば万次郎が笑う笑うで正直ムカついた。



「なにA、まだ九井にアタックしてんの？」

「誰から聞いたの？」

「乾がタケミっちに、タケミっちが俺に」

「イヌピーめ」



健気〜と7割馬鹿にしてくる万次郎からさっき渡したどら焼きを没収する。ドラケンは「どんくらい切んの？」と私の髪の毛を触ってくる。だから、もっと短くと答えた。


そして目の前で私のことを凝視してくる圭介が「切んな。俺は反対」とガンを飛ばしてくる。いや、怖いから。



「つーかなんで九井なんだよ」

「ホントなんで九井くんなんだろう」

「お前が知らなくてどうすんだよ」



でもさ仕方ないよね。欲しいって思っちゃったんだもん。私も九井くんに一途に想われたいって。



「敢えて言えば一途なところかな」



ほんと髪色変えたぐらいじゃ全然靡かない。
イヌピーと話してるの聞いちゃったんだ。髪の色を変えたところで容姿は赤音さんと変わりないって。だから次は髪の毛を切ることにしたの。


自分でも笑えてくるよ。
髪の毛伸ばそうとしていた。だって長い方が女の子は可愛いって真一郎も言っていたから。



「何でだろう、私のどこがダメなんだろう」

「だから黙ってればいいんだってAは」

「違うんだよ黙ってたら尚更似てるって言われるんだよ」



重ねられたくないから。
喋っている間だけでも、赤音さんじゃない変人佐野Aだって思われてもいい。



「唯一の違いは性格だけだもんなぁ」



頬杖をついて万次郎の部屋の壁をじっと眺めている私を圭介はずっと見ていた。



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