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大きなお屋敷の前。
私は息が詰まる思いだった。ううん、すでに息がしづらい。私は小さい頃、ここで育った。忘れもしない、大好きなお母さんと一緒に暮らしたお屋敷だから。
「大丈夫か、A」
「…………ご、ごめん」
彼の前だけでは平然でいたかった。
けど、駄目だ無理だった。屋敷を訪ねる前に、人気のいないところまで連れて行ってもらう。
何度か深呼吸をするけれど、なかなか落ち着かない。きっと杏寿郎はわかっていて、何も聞いて来ないんだ。手を伸ばし、杏寿郎の羽織を掴んだ。
「ごめん、本当情けない話なんだけど、私のわがまま聞いてもらえない?」
「……あぁ、もちろんだ。Aが落ち着くまで付き合おう」
「……ありがとう」
一歩二歩、杏寿郎に近づく。
彼の胸を借りて息を整えた。そうしていれば、杏寿郎は私の背中に手を回し、そして後頭部を優しく撫でてくれる。
目を閉じて、スーッと呼吸をする。
私が落ち着きをなくすようなことは滅多にない。過去にあったのも片手で数えられるほど数回だった。だけど、その度、私は彼の胸を、暖かさを借りて落ち着きを取り戻している。
「ーーーうん、もう、大丈夫」
彼から離れて笑顔を浮かべる。
もう一度戻ってきたお屋敷の前で深呼吸をし、ベルを鳴らした。中から出てきた若い奉公人が「どちら様ですか?」と尋ねてくる。
「本日よりこちらでお世話になる、……
「……!………俺は煉獄杏寿郎だ!」
やたら大きな声で挨拶をするものだから、腕で突いてもう少し声を抑えるよう伝える。奉公人は大きい体つきの杏寿郎を怪訝そうに見つめるも、私たちを中に入れてくれた。
ーーー任務内容は、この屋敷に潜む鬼の討伐。作戦として、私と杏寿郎は奉公人として中に潜入する。
「こちらの部屋にいるのがこの屋敷の主人、火和清美様です」
「………火和?」
隣から視線を感じる。
そりゃあそうだ。私と同じ苗字なのだから。
開かれた扉から中に入る。こちらを振り向いた彼女は笑みを浮かべた。それをみた杏寿郎が「よもや」と小さくつぶやいた。
「こんにちは、今日からよろしくね」
「…………はい」
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美桜(プロフ) - あ ま ね 。さん» コメントありがとうございます。やはり不死川さん好きなので、なにかと絡み入れたくなるんですよね笑夢主ちゃんは風柱のことを「おはぎ柱」と呼んでるんで、毎回この流れになってます笑 (2020年12月5日 20時) (レス) id: d3adf571e3 (このIDを非表示/違反報告)
美桜(プロフ) - めるさん» コメントありがとうございます!そのように言っていただけて嬉しいです。執筆の励みになります!出来るだけ毎日更新していくのでよろしくお願いします! (2020年12月5日 20時) (レス) id: d3adf571e3 (このIDを非表示/違反報告)
あ ま ね 。(プロフ) - おはぎ柱で爆笑しました笑笑 更新楽しみにしてます! (2020年12月5日 8時) (レス) id: 36c644cd03 (このIDを非表示/違反報告)
める(プロフ) - ほんとうにほんとうに美桜さんの作品がすきなので続きが楽しみで仕方ないです…。わくわくして待ってます!! (2020年12月5日 2時) (レス) id: 0fd2e5e0a5 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:美桜 | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/ririsa10713/
作成日時:2020年12月4日 20時