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「Aさん!お久しぶりです」
「………竈門くん」
彼と会ったのがずいぶんと前のように感じる。
久方ぶりに会った杏寿郎の最期を知る彼は少し成長したように思える。変わったといえば、失われた片目の光、そして片腕。
鬼殺隊の証である隊服に、日輪刀を持っていない姿を見て、もうこの世界には鬼は存在しないんだと思われされた。
隣にいる彼に少し似た可愛らしい女の子は、あの時は鬼だった彼の妹のようだ。あの時は箱の中に入っていたから、こうして会うのは初めましてかな。
煉獄家にやってきた彼は、槙寿郎さんや千寿郎くんに挨拶をすると私のところまでやってきた。縁側に座る私に駆け寄る二人。
「お兄ちゃん、この方は?」
「あぁ、煉獄さんの婚約者の佐倉、」
その名前を呼び終える前に、「今は違いますよ」と微笑んだ。え?と驚く炭治郎くん。膨らんだお腹に手を当てて、目を伏せた。
「ーーー煉獄家長男、杏寿郎の妻、煉獄Aです」
「……!」
あの日決意したんだ。
強く生きる、とこの子のためにも前に進まなきゃいけないんだ。きっと杏寿郎も背中を押してくれるはずだ。
「Aさん……」
「きっとね、この子は杏寿郎のように逞しく強くなる」
ーーーきっと、そうだよね、杏寿郎。
お腹に触れる竈門くんの妹、禰豆子ちゃんはどこか懐かしそうな表情をした。きっと竈門くんたち兄妹には下の兄弟がいたのだろう。
「Aさん、これお返します」
竈門くんは私に白い布に包んだ何かを渡してくる。包まれていたのは杏寿郎がつけていた鍔だった。もう鬼を斬るための刀は必要なくなった。だから、彼は杏寿郎の形見でもあるそれを返そうとしているのかもしれない。
それを見て、微笑む。返してもらったそれを竈門くんに「貴方が持っていて」と包み方して渡した。杏寿郎が未来のために、彼らに託した意志だ。
「杏寿郎が私に遺してくれたものはこの簪だけだと思ってた。けどね、もっと素敵なものを遺してくれたから、私は強くなれる」
だから、この子が生まれたらどうか杏寿郎の話をたくさんしてあげて欲しい。彼が誇り高き鬼殺隊の柱だったこと。
「私も、杏寿郎のように、心を燃やして生きていくから」
縁側の先の庭、そこでよく彼は鍛錬をしていた。そこを見つめると、竈門くんに笑顔を見せた。
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るる - 読んでる途中に目から水が、、、、、、、、 とってもいい作品でした!!!!!! (7月25日 14時) (レス) @page50 id: daa8a87cdb (このIDを非表示/違反報告)
ユキ(プロフ) - 初めまして!涙なしに観れませんでした… (2021年9月26日 18時) (レス) @page50 id: fb083d1d07 (このIDを非表示/違反報告)
名無し12758号(プロフ) - 素敵なお話をありがとうございます…!一話目から引き込まれて全て読みました、鼻水まで出してみっともない泣き顔で読んでしまいました…笑笑映画でもボロ泣きしましたがこれでも号泣してしまいました、素敵な話が読めて良かったです。本当にありがとうございます! (2020年11月23日 19時) (レス) id: 3be706ff9b (このIDを非表示/違反報告)
ちえ - 初めまして!このお話を深夜に見かけ一気に読みました。映画でも泣きましたが、このお話も号泣でした。素敵なお話ありがとうございます。何度でも読んでしまいそうです。 (2020年11月23日 2時) (レス) id: b7bf575f91 (このIDを非表示/違反報告)
raaaaaaam(プロフ) - 初めまして!私も一気に読み、深夜なのに号泣笑 隣に寝てる子供が起きるぐらい泣いてしまいました笑 煉獄さん、、最高!素敵な夢を見させて下さりありがとうございます(T_T) (2020年11月20日 4時) (レス) id: c6906907ca (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:美桜 | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/ririsa10713/
作成日時:2020年10月26日 20時