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「……あっ」
ーーーガチャン。音を立てて割れた湯飲みに慌ててその場にしゃがみ込んだ。杏寿郎さんが愛用している湯飲みだ。
どうしよう……と新聞の上に割れた破片を一つ一つ移しながら考えた。この湯飲みは以前、彼が任務先で頂いたものだった。割っちゃった……と一人しょげた。
「帰ってきたら、謝ろう……」
ごめんね、杏寿郎とつぶやいて彼が気に入っていた湯飲みを処分する。
訪問着に着替え、近所のおばさんに頂いたさつまいもを包むと屋敷を出た。今日は千寿郎くんのところに行く。いただいたお芋のお裾分けだ。
杏寿郎さんがくれた簪が風に揺れる。屋敷の前に着くと、中から誰かが出てきた。「隠」と書かれた服は、鬼殺隊の制服と同じものだった。首を傾げつつ、その方々が門を潜るのを待つ。
綺麗な白髪の女の方が私を見て頭を下げた。
「…………あの、鬼殺隊の方、ですか?」
「はい。私は産屋敷あまねと申します。貴方は……」
「佐倉Aと申します。杏寿郎さんがいつもお世話になってます」
微笑み、どうかなさったんですか?と聞く。
産屋敷さんは重い口を開き、「炎柱、煉獄杏寿郎殿のご遺体をお届けに来ました」と言葉を紡いだ。
「ーーーーえ?」
.
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産屋敷さんが私に何か言っていた。けど、耳に何も入らなかった。ゆらゆらと煉獄家のお屋敷に上がり、廊下を歩けば、先からやってくる槙寿郎さんが顔を歪めた。
何も言わず横を通り過ぎる彼に、私はある部屋、杏寿郎さんが使っていた部屋に入った。そこには白い布団の上に眠る"誰か"と縋りつき泣く千寿郎くん。
音を立ててしまい、私に気づいた彼は慌ててこちらを見て額を床につけた。
「Aさん、すみません………Aさんには……すぐに伝えるべき……だったのに……っ」
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夢を見ていた。
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愛する彼と家族になって、幸せになる夢。その夢が今、音を立てて崩れ落ちていく。
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るる - 読んでる途中に目から水が、、、、、、、、 とってもいい作品でした!!!!!! (7月25日 14時) (レス) @page50 id: daa8a87cdb (このIDを非表示/違反報告)
ユキ(プロフ) - 初めまして!涙なしに観れませんでした… (2021年9月26日 18時) (レス) @page50 id: fb083d1d07 (このIDを非表示/違反報告)
名無し12758号(プロフ) - 素敵なお話をありがとうございます…!一話目から引き込まれて全て読みました、鼻水まで出してみっともない泣き顔で読んでしまいました…笑笑映画でもボロ泣きしましたがこれでも号泣してしまいました、素敵な話が読めて良かったです。本当にありがとうございます! (2020年11月23日 19時) (レス) id: 3be706ff9b (このIDを非表示/違反報告)
ちえ - 初めまして!このお話を深夜に見かけ一気に読みました。映画でも泣きましたが、このお話も号泣でした。素敵なお話ありがとうございます。何度でも読んでしまいそうです。 (2020年11月23日 2時) (レス) id: b7bf575f91 (このIDを非表示/違反報告)
raaaaaaam(プロフ) - 初めまして!私も一気に読み、深夜なのに号泣笑 隣に寝てる子供が起きるぐらい泣いてしまいました笑 煉獄さん、、最高!素敵な夢を見させて下さりありがとうございます(T_T) (2020年11月20日 4時) (レス) id: c6906907ca (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:美桜 | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/ririsa10713/
作成日時:2020年10月26日 20時