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杏寿郎さんは街にいる間、鍛錬に励みながら千寿郎くんを気にかけ、そして私のところにもよく顔を出してくれた。時折煉獄家にお邪魔して、槙寿郎さんを部屋から連れ出し4人でご飯を食べる。
そして、この町にいるのもあと一晩という夜。
杏寿郎さんは、私の屋敷にいた。最終日だから千寿郎くんと皆でご飯でも、と思っていたが千寿郎くんのご好意を受け、最後の日は私と二人きりにさせてくれた。
彼が湯浴みをし終え、私も湯浴みをすると綺麗に拭きあげた髪を横に流し寝床へと歩いていく。部屋に入ると既に杏寿郎さんは布団の上で寛いでいた。
「やはりこの枕は良い硬さだな」
「それ、杏寿郎さんが任務先で気に入って持ち帰ったものじゃないですか」
ふふ、と笑ってその隣に腰を下ろす。
枕にボフボフと拳を当てている彼を見つめた。明朝に任務に行ってしまうのを寂しく思う。すると、いつのまにか伸ばされた手が私の頬を優しくなぞっていた。
視線を彼に移すと、杏寿郎さんは「そんな顔をするな」と微笑みかけた。この手が好き。彼の手に自分のを重ねて「寂しいです」と素直になる。
「…………A、抱いても良いか?」
小さく頷いて、唇を重ねる。ゆっくりと布団に背中がくっつくと、私の首筋に彼は顔を埋めるように吸い付いた。
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「ーーーそれでは、行ってくる」
「はい」
腰に日輪刀をさして、羽織を翻す。
玄関の先で彼を見送る。もう慣れてしまったはずなのに、毎回泣きそうになってしまう。
歩き出した彼の背中はいつも以上に眩しかった。
光の束のようで、それでいてなぜか消えてしまいそうに感じた。居ても立っても居られない、とはまさにこういうことだろうか。気づけば、彼の背中を追いかけていた。
杏寿郎さんに手を精一杯伸ばして、その背中に抱きついた。「うむ、どうした?」といつもと変わらない声色が無性に泣きたくなった。
「なんだかこうしていないと、後悔してしまいそうで……」
「A、大丈夫だ。安心してくれ」
いつもなら、安心できるその言葉も何故だか今日は安心出来ずにいた。
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るる - 読んでる途中に目から水が、、、、、、、、 とってもいい作品でした!!!!!! (7月25日 14時) (レス) @page50 id: daa8a87cdb (このIDを非表示/違反報告)
ユキ(プロフ) - 初めまして!涙なしに観れませんでした… (2021年9月26日 18時) (レス) @page50 id: fb083d1d07 (このIDを非表示/違反報告)
名無し12758号(プロフ) - 素敵なお話をありがとうございます…!一話目から引き込まれて全て読みました、鼻水まで出してみっともない泣き顔で読んでしまいました…笑笑映画でもボロ泣きしましたがこれでも号泣してしまいました、素敵な話が読めて良かったです。本当にありがとうございます! (2020年11月23日 19時) (レス) id: 3be706ff9b (このIDを非表示/違反報告)
ちえ - 初めまして!このお話を深夜に見かけ一気に読みました。映画でも泣きましたが、このお話も号泣でした。素敵なお話ありがとうございます。何度でも読んでしまいそうです。 (2020年11月23日 2時) (レス) id: b7bf575f91 (このIDを非表示/違反報告)
raaaaaaam(プロフ) - 初めまして!私も一気に読み、深夜なのに号泣笑 隣に寝てる子供が起きるぐらい泣いてしまいました笑 煉獄さん、、最高!素敵な夢を見させて下さりありがとうございます(T_T) (2020年11月20日 4時) (レス) id: c6906907ca (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:美桜 | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/ririsa10713/
作成日時:2020年10月26日 20時