ただいま、愛おしい人【不死川実弥】

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ーーー兄貴に、恋人が出来た。




「あの風柱に、恋人いるらしいぜ」

「しかも相当惚れ込んでるらしい」



そんな噂を他の剣士からたまたま聞いた。
噂が本当かどうかはわからないけれど、兄貴が惚れる女の人ってどんな人なのか、気になった。


弟なのに俺は、直接兄貴に聞くところかそばにいることすらできない。でも、きっとそんな兄貴でも、世界一優しいから、そういう一面を好きになってくれる女の人は絶対にいるはずだ。きっとその人もまた綺麗な心の持ち主なんだろう。



「玄弥くん、ちゃんとご飯食べてくださいね」

「………はい」



蟲柱の胡蝶さんから診察を受け、帰ろうと部屋を出る。廊下を歩き、角を曲がったところ誰かとぶつかった。俺よりも小さな体がゆらりと揺れる。弾き飛ばされそうになっていたその人の体を支えるように腕を伸ばせば「ごめんなさい！」と謝られた。


俺がぶつかったのが一番悪いってのに、謝ってきたその人に「俺こそすみません」と言えば、その人と目が合う。綺麗な瞳だ。



「…………あ、」

「え？」



その人は俺のことを知っているのか、そう小さく呟いた。「もしかして玄弥くん？」と首を傾げる彼女に、ハイと返す。いつからか、女が苦手になっていた。なのに、この人の前では普通だ。


彼女はふふっと笑って「初めてまして、風門Aです」と挨拶をした。反射的に「不死川玄弥です」と挨拶を返せば、「知ってる」と言われる。



「なんで俺のこと知ってんすか？」

「…………あ、頬切れてるよ」



俺の質問の返しはない。

頬に手を伸ばしてくるAさんは優しく頬を緩めて、「痛くない？」と、聞いてきた。それがなんとなく死んだ母親にそっくりで、思わず見惚れちまった。


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