28 ページ28
*
「だから笑ってくれ」
焦凍に取り上げられたスマホを今度は私が奪うようにして取り返す。鞄を手に持ち、帰ろうとすれば焦凍は私の手首を掴んだ。
「……ごめん、離してくれる？」
「今放したら、また俺から離れようとするだろ」
「し、しないよ。ほら、明日も仕事……は、早いしさ……！」
全然離してくれない。
音を立てて落ちた鞄を焦凍は拾うと、私の両手を包み込むようにして握った。もう一度椅子に座らせ、彼は「大丈夫だ」と安心させるように呟く。
震えた手を包み込んでくれる焦凍の手に、私の涙が落ちた。自分に自信がない。彼の隣に立つべき人間は私じゃない。もっと素敵で、心の強い女の人が彼には似合う。
「………ごめん、ごめんなさい……っ」
「謝るな。Aは何も悪いことしてねぇだろ」
「………お願い、帰らせて……っ、一緒に居たくない……っ」
私はヒーローには向いていなかった。
怪我をして明確にわかった心の弱さ。たったこれだけのことで心は簡単に折れてしまう。そんな人間がヒーローになんてなれるわけなかったん、だよ。
いっそのこと、こんな私を笑ってよ焦凍。何も変わらない成長しない私を見て嘲笑ってよ。幻滅したって離れて行ってくれた方がまだマシだ。
「ーーー頼む、俺のそばからいなくならねぇでくれ」
「……………っ」
私たち以外にまだ人がいる事務所で、焦凍は私を抱きしめた。何度も「いなくならないでくれ」と言いながら、震えた腕で私を抱きしめていた。
「俺はお前が好きで好きでたまらねぇんだよ」
「…………焦凍」
不安で涙が止まらない。けれど、焦凍の震えた腕に、私も抱きしめ返すようにして腕を回していた。焦凍は私から一度離れると、私の手を握って部屋から出る。
小さな会議室へと入ると、彼はまた私を抱きしめる。泣いている子供をあやすように、背中を何度も優しくさすりながら。
暫くして涙が止んできた時、「大丈夫か？」と小さく声をかける。頷いて顔を上げれば、焦凍は「スマホ貸せ」といい、私のスマホからSNSのアプリを削除していた。
「……なんで消したの？」
「あったら見てしまうだろ。こんなもんなければ見ることもねぇだろ」
「……それも、そうか……」
彼は私の頭を何度か優しく撫でると、優しく笑って見せた。
「自信なんてどうすりゃつくのかわかんねぇが、お前が俺のそばにいたいって思ってくれるように毎日でも好きだって可愛いって言ってやるよ」
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 393人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
莉緒(プロフ) - めっちゃ好きです！！続き待ってます。更新頑張ってください！ (1月15日 12時) (
レス) @page36 id: ff1884054a (このIDを非表示/違反報告)
藍蝶(プロフ) - エンデヴァーが冷や汗流すの面白すぎますWW (1月3日 19時) (レス) @page35 id: 73807850f7 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：美桜
| 作者ホームページ：http://uranai.nosv.org/u.php/hp/ririsa10713/
作成日時：2023年9月18日 12時
