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好きな女がいた。
18年間生きてきた中で、多分こんなに可愛い人いないだろうなと思っていた。だから必死に自分をよく見せて、好きになってもらおうと頑張った。


デートに誘ったり、学校帰りに一緒に帰ったり。兄貴にめちゃくちゃ笑われたけれど、それでも手に入れたかった。それぐらいに好きだった。


けれど、結局はその女も他の女と変わりなかった。そう思った。頬を染めて兄貴を見る、その目。



「……すっごく好き」



俺にじゃなくて兄貴に向けられたその言葉。
兄貴の上がる口角。また兄貴かよ……なんて苛ついて、言い放った言葉は深く彼女の心を抉っていた。


学校近くに停めてある駐輪場で兄貴と言い合いになった。さっきのは誤解だと。女は、……Aは竜胆のことが好きだって、兄貴は言っていた。


教室で立ち尽くすAの顔が脳裏にこびりついた。
帰り道やデートの時に見せる表情の一つ一つ、昨日ホテルで俺に抱きつきながら「りんど、うくん」と俺を呼んだ時の惚けた顔。



「ーーー竜胆くん!!」



泣きながら走ってきたAが俺を呼んだ。
あの時、教室でちゃんとAの話を聞いていればこんなことにはならなかった。走ってくるバイクに気づいていない彼女が信号も見ずに走ってくる。


名前を叫んだって遅かった。
やけにスローモーションに見えた。好きな女がバイクに撥ねられる瞬間だった。


少しして学校に戻ってきたAに謝って今度こそ告白しようと決めていた。しかし教室に乗り込んできた俺の顔を見たAは眉を八の字にして。



「………だ、誰?」



俺のことはもちろん、家族以外の人間のことは誰一人として覚えていなかった。記憶喪失、そのことはすぐに学校中に広まった。


後悔しているとしたらきっと好きな女に「好き」だと言えなかったこと。まだ餓鬼で勘違いから彼女を傷つけたなければ、きっと俺の隣に今いたかもしれない。



後悔したって何にも戻らねぇのに。



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(プロフ) - 完結おめでとうございます。そっと竜胆くんたちを見守らせていただいておりました。番外編もありがとうございました!とても癒されました。次回作も楽しみにお待ちしてます! (2022年1月10日 18時) (レス) @page46 id: 1f3bc36824 (このIDを非表示/違反報告)
ぴよ(プロフ) - 完結おめでとうございます!そして素敵な作品ありがとうございます!やっぱ美桜さんの作品好きすぎる、、、次回も楽しみにしてます! (2022年1月10日 11時) (レス) @page46 id: 5a0c9ff92a (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:美桜 | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/ririsa10713/  
作成日時:2021年12月25日 13時

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