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「あれ、なんか俺勘違いしてたんかな」
『…なにを、ですか?』
「Aちゃん、俺と話す時もっと楽しそうに喋ってくれとった気して」
思わず笑ってしまいそうになる
そんなバレバレな顔してたんだ、わたし
「そんな訳ないよなー、ごめんごめん」
『……………濱家さん、一つ聞いてもいいですか』
「ん?」
『あの時、廊下でわたしの腕を掴んでくれた時、何を、言おうとしてくれたんですか?』
今しかないと思った
もうこんなタイミング巡ってこない気がして
けれど濱家さんは一瞬驚いたような顔をして
そのまま後ろを向いてしまった
「…え?あー、あれな。なんやったかな?覚えてないからそんなたいした事やなかったんと思うで」
…濁されてしまった
どうして?
あの時わたしも濱家さんの腕を掴み直せば本当の事を言ってくれた?
そんな嘘つくぐらいならあんなことしないでほしかった
こんなにわたしばっかり好きにさせといて
狡いよ、
ゆっくりと動いた足が向かうのは、その大きな背中
「ちょ、Aちゃん?何してん…」
『………すき……好きなんです、濱家さんのことが。分かってます……こんな事しても困らせるだけだって、でももう伝えないと、ちゃんと、っ、諦めきれないから……っ、』
涙が溢れてしまいそうになる前に体から離れた
ふと我に帰る
……とんでもないことをしてしまった、と
とりあえずこの場を離れようと
ごめんなさい、と小さく呟いて荷物を拾って出ようとすると
今度は濱家さんの腕が、わたしのお腹にまわった
「あの時ほんまは……2人でご飯でも行かへん?って言おうと思っててん」
『……っ、』
「でもな、なんかAちゃんの純粋な目見たら言えんくて……それが逆に傷付けてしもうてたんやな」
『……勘違いなんかじゃないですよ、全部。だって好きだったから』
「じゃあ……諦めるなんて言わんといてや」
確かに耳元で聞こえた弱々しい声
胸がぎゅっと締め付けられる
やっぱりわたしは、この人のことが好き
「引き金ひいたんやから、もう後戻りできひんよ」
わたしは返事の代わりに、その大きな手のひらに自分のを重ねた
いつも付けられているはずのそれが、
わたしの心を悩ませていたその感触が、
そこには無かった
『…悪いひとですね、濱家さん』
「…お互い様やろ」
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作者名:みゅん | 作成日時:2021年7月27日 21時