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「適当に座って」
サークルの先輩たちと一緒に何度か宅飲みしに来た矢花の部屋。
ひとりで来るのは初めてだった。
部屋の両脇に楽器やCDや本がたくさんあって、部屋の真ん中に座ると巣の中にいるような感じがした。
深く沈むソファも気持ちよくて。
なんだか不思議と居心地が良かった。
この日のためにあれこれ準備した矢花の好きそうなツマミを並べて、自分もとっておきのお酒を出した。
とりとめのないおしゃべりは尽きなくて。
ずっと楽しかったけど。
色っぽい雰囲気には全然なれなかった。
矢花に触れたくて。触れてほしくて。
お酒の勢いを借りたかったけど
今さらお酒の弱い可愛い子のふりも出来なくて。
どうすれば矢花のそばに行けるかわからないまま、ずっとグラスを握りしめていた。
矢花の横顔をちらり、と覗いても
まるでいつもと変わらない態度の矢花が、近いのに遠くて。
ふたりきりでいてもなにも意識してもらえないのかなって思うと胸が苦しくなって
それが一番わかりやすいことのように思えて、思わず『行為』の誘いを口にした。
「ねぇ矢花？」
「ん？」
「しない？」
沈黙と、矢花の固まったような張り付いた笑顔に、心の中の砂の城が一気に崩れていった。
「冗談だって！そんな顔しないでよ」
慌てて言った言葉は白々しくて。
いつまでも口の中が苦かった。
それから、それが当然のこと、というように、
矢花はわたしにベッドを使わせてくれて、自分はソファに寝転んだ。
ひとり掛けの、小さなソファ。
長い手足が肘掛けからはみ出て、どう見ても寝づらそうだったけど。
「最近ずっと作業しながらデスクで寝落ちしてたから。
横になって眠るだけで俺にしたら人間らしい寝方だよ。笑」
わたしに気を遣わせないようにそんな風に笑ってくれた。
その夜、眠れなくて、ベッドの上から矢花の部屋を密かに観察した。
小さなアパートの小さな部屋にぎゅうぎゅうに詰め込まれた楽器と機材。
ラックに入ったたくさんのCDと床に直接積まれた雑誌。
パソコンデスクの後ろの黒い合皮のソファ。
ベッドから手を伸ばせば、背もたれからだらり、と伸びた矢花の細い腕に手が届きそうだった。
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りぷる(プロフ) - めがねさん» コメントありがとうございます♡素敵な感想をお寄せいただき嬉しいです！拙いお話ばかりですが、これからも読んでもらえたら嬉しいです♡ (1月29日 5時) (
レス) id: fcab587f4a (このIDを非表示/違反報告)
めがね - 切ないお話に胸がいっぱいです。素敵な作品をありがとうございます。 (1月29日 2時) (レス) @page12 id: 2d5e7fc344 (このIDを非表示/違反報告)
りぷる(プロフ) - ひとみさん» 矢花さんの大人っぽくも少年らしさがあるところが好きなので、学生時代設定が多くなってしまいます‥ひとみさんいつもありがとうございます♡ (2023年2月28日 6時) (レス) id: 37903b9c18 (このIDを非表示/違反報告)
ひとみ(プロフ) - 矢花君連続で嬉しいです^ - ^前作もすごく良くて、制服矢花君見たくてYouTubeの青春シリーズ見返しちゃいました^ - ^今作もきゅんきゅんですね♡続き楽しみにしてます♪ (2023年2月27日 21時) (レス) @page42 id: ae75e2ccfb (このIDを非表示/違反報告)
りぷる(プロフ) - 靴下さん» いつもコメントありがとうございます♡靴下さんから感想いただくとなんだか安心するような嬉しい気持ちになります！切ないの好きって言ってもらえるの嬉しいです。またお読みいただけると嬉しいです♪ (2022年12月26日 7時) (レス) id: 37903b9c18 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：りぷる | 作成日時：2022年11月19日 18時
