13歩、 ページ16
川西side
Aが今も住んでいる、俺の出身地でもあるその市は、田舎と呼ばれるこの県の中でも比較的栄えている街だった。
他の市とは比べ交通網や電車も発達しているし、文具屋や書店、ファーストフード店も割とある方だ。
その中でも、一番のシンボルとも言われているこのショッピングモール。
そこが、
いつもの場所。
そこは俺らの初デートの場所でもあって、付き合いたての頃はよく通いつめて色々やったりした。
＿＿＿＿＿でも。
もう、ここで話すことは。会うことは、無いのかもしれない。
あったとしても、それは限りなく低いところの話なのかもしれない。
チャンスとしては大失敗したからだ。
いや、俺が。俺が、自分で壊した。
今冷静になって見れば、あれは確実に違った。
店員かなんかだ。
俺が勝手で、一方的な誤解をしてしまっただけで。
自分が情けなくって、そんな自分自身が苛ついてしょうがない。
なんで。
なんでいつも、自分が行動しようと思ったことばかり上手くいかないのだろうか。
なんで、必要の無いことばかり、上手くこなせてしまうのだろうか。
何をやっているんだろう。
自分に余計に腹が立った。
＿＿＿＿＿＿＿＿＿
ー約30分前ー
そのいつもの場所に向かい、暫く経ったとき、遠くの店舗にAらしき人の姿が見えた。
これは見逃せないと感じてそっとその店舗へと向かった。
向かって、姿を隠してそっと見張る。
誰にも、怪しまれぬように。
そして見張ったのはAじゃなくて、俺の方だった。
字の通り、目を見張った。
居た。居たのだ。
まるで俺の隣にいたときみたいに。楽しそうに話すAと、砂糖顔で、甘いマスクをしたオシャレな若い男が。
無理だと思った。勝てないと。
身長はもちろん俺より下だが、その顔と優しく気遣いながらスマートに立ち振る舞っているその姿に、完敗したような気がするのだ。
全て、
俺には、出来なかったことだから。
勿論、俺だって最大限出来ることはしたつもりだ。
ああやって、長話ばっかしてれば首が凝るだろうから。できるだけ身を屈ませて聞いていたし、眠そうにしていれば頭を撫でて、寝かせていた。
でも、俺には何かが足りなかった。
それは分かりきっていたのに。
何も変わらなかったから。
こうやって、今、ベンチに項垂れているんじゃないか。
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作者名：水菜 | 作成日時：2022年12月11日 16時
