3 彼女とあるケーキ ページ4
____大変なことをしてしまった。
ぐったりとしている目の前の男を見て、彼女は__木鈴Aは思った。
殺しちゃった?
私が?
焦りで泣きそうになりながら、両親の顔や幼い頃、
……そして自分がさっき理性を失ったことを思い出す。
まるで走馬灯のようだ。
(ああ、お父さんお母さんごめんなさい。
貴方がたの娘はこんな人殺しになってしまいました。
いや、今謝るべきは目の前のこの男性だ……私は本当なんてことを……)
ずっと下から抱き着いたような格好だったので、そっと身体を離した。
そっと首の後ろを支え__あれ。
(脈がある………!!)
まだ生きている!
ひとまず、最悪の事態では無い。
Aはまた嬉し泣きしそうになる。
(とりあえずあの橋の下に運ぼうかな……)
彼女自身驚いたのだが、Aは男をおぶって歩く事ができた。
気付けば、身体の端々まで力が満ち、脳の中は明瞭に景色を写している。
要はすこぶる調子が良い。
ケーキを初めて食べたAの身体は今、「異常なほど健康」だったのだ。
(……つくづく、自分の体が嫌になるなぁ)
橋の下に、男を横たわらせる。
(いくら殺していないとはいえ、警察沙汰になる……
でもやれることはやったし。この人が起きたら警察呼ぼ)
私は何故こうなってしまったんだろう、と思わず思い返す。
____
Aが自らが「フォーク」であると知ったのは、16の時だった。
前から食べ物の味が薄く感じていたが、まさか自分がフォークだなんて。
両親は悲しんだ。
フォークへの差別は今だ根強いのである。
公に言えば友人が離れるどころか、家ごと「フォークを産んだ家」として差別を受ける。
「食人鬼」、「理性の無い化け物」__
彼女らをそう認識する人間は今でも一定数いるのだ。
冷えた目線。
そしていつしか、その目線すら反らされていく。
それが分かった時、明るく前向きだった少女は、少しずつ、確実に曇っていった。
(これ以上、お母さん達を巻き込むわけにいかない)
「自分は居てはいけない」……そう考えたAは、大学進学を機にこの赤塚区へ来たのだった。
_____
(引っ越し作業で体力使ったから、お腹減ってたんだろうな)
ぼんやり男の顔を見つめながら、そう思った。
彼女がしばらく食事を取っていないことに気付いたのは、その数分後の事である。
64人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「オリジナル」関連の作品
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
もふ田もふ猫。(プロフ) - ポチさん» 占ツクのコメ欄は会話禁止なので、これ以上の会話はぜひボードの方にお願いしたいです。上手いこと対応が思いつかず本当にすみません。コメントありがとうございました! (2021年11月16日 17時) (レス) id: 332b76537b (このIDを非表示/違反報告)
ポチ - おはようございます。そうなんですね!あのう、お願いしたい事があるのですが (2021年11月10日 7時) (レス) id: e281db1a4b (このIDを非表示/違反報告)
もふ田もふ猫。(プロフ) - ポチさん» コメントありがとうございます!おそ松さんが好きなのでこういう作品を書いています! (2021年11月10日 0時) (レス) id: 2107166e13 (このIDを非表示/違反報告)
ポチ - おそ松さんお好きなんですか? (2021年11月10日 0時) (レス) id: e281db1a4b (このIDを非表示/違反報告)
もふ田もふ猫。(プロフ) - 夜弧さん» むっちゃんだ!!読んでくれててありがとね、がんばる!! (2021年9月24日 20時) (レス) id: 2107166e13 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ