12 彼女とある食事 ページ13
ああ私は本当に気持ち悪い人ね。
食欲の中そんなことをぼんやり考えながら、Aは肩甲骨の内側の辺りに口を付けた。
瞬間、びりりと舌に刺激が走った。
朦朧として貪った前と違い、はっきりと味が分かってしまう。
とんでもなく甘い。どんな上等な果物もお菓子も、これには敵わない。
そう理解した。
この下にある血を肉を全部平らげてしまいたい。
けれど、一瞬よぎったその想像がどんなに恐ろしいことか分かるだけの理性は、まだ残っている。
(……ごめんなさい)
謝罪の言葉はずっと心の中で呟いている。
セーターも上の下着も脱いでもらってしまった。恥ずかしいだろうに、彼は何も言わない。
猫背の背中は、やわい肉が付いていた。羨ましいと思えた。
さっき口を付けたところに、今度は舌を沿わせる。一松の身体がわずかに跳ねた。
見れば、口を手で押さえている。
『今のは痛かったですか?』
「っいや、大丈夫……」
何か返そうとしたが、その前に体が動く。どうしようもなく動かされる。
おかしくなったらどうか止めてくれと願いながら、背中に縋る。
骨の出っ張りをくわえて、手は爪を立てぬよう我慢して、赤ん坊みたいにチュッと音がしたけど、
それがどんな動きなのかもはや分からない。
くらくら酔う程の甘さだった。きっとお酒もこんなに深く匂う甘さは持っていまい。
夢中の内に、「ん、」と一松の声が聞こえて、
(ごめんなさい、くすぐったいよね、本当にごめんなさい)
だなんて泣きそうになった。
(フォークになんて生まれてしまったからこんな事になるんだ、もう嫌、辛い、助けて)
ときおり洩れる一松の声さえ柔く甘美に聞こえた自分が気持ち悪い。
(元々良い声の人だったじゃない__だから裏返った声なのに、女の子みたいに綺麗なんだ)
やけくそ半分に、はぷ、とまたくわえた。
(あ、駄目、歯立てちゃった)
それに気づいたが早いか。
「今、噛んだよ」
と腕を掴まれていた。
「だから悪いけど、今日はおしまいにして」
『はい』と答えようとしたが、息が乱れてできない。
やっと『分かりました』と言うと、慌てて一松は腕を離す。
「ごめん、びっくりしてたから」
『いえ……すみません』
呼吸を整えて、Aは(やっぱり綺麗な声だな)、等と関係の無いことを考えていた。
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もふ田もふ猫。(プロフ) - ポチさん» 占ツクのコメ欄は会話禁止なので、これ以上の会話はぜひボードの方にお願いしたいです。上手いこと対応が思いつかず本当にすみません。コメントありがとうございました! (2021年11月16日 17時) (レス) id: 332b76537b (このIDを非表示/違反報告)
ポチ - おはようございます。そうなんですね!あのう、お願いしたい事があるのですが (2021年11月10日 7時) (レス) id: e281db1a4b (このIDを非表示/違反報告)
もふ田もふ猫。(プロフ) - ポチさん» コメントありがとうございます!おそ松さんが好きなのでこういう作品を書いています! (2021年11月10日 0時) (レス) id: 2107166e13 (このIDを非表示/違反報告)
ポチ - おそ松さんお好きなんですか? (2021年11月10日 0時) (レス) id: e281db1a4b (このIDを非表示/違反報告)
もふ田もふ猫。(プロフ) - 夜弧さん» むっちゃんだ!!読んでくれててありがとね、がんばる!! (2021年9月24日 20時) (レス) id: 2107166e13 (このIDを非表示/違反報告)
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