朝の話-1 ページ3
朝起きると、体が動かなくて困った。
正面から伸びる腕が僕の体を拘束しているのが見える。
柔らかくて広いベッド。2人で寝てもなんの問題も無いのに、どうしてかいつも起きるとこうなっている。
「…フレイ。」
正面の彼に声をかけてみる。起きて腕を外して欲しくて。けど、変わらず聞こえてくるのはすやすやという寝息だけで。
無駄だってわかってるけど、一応拘束から逃れようと踠いてみる。硬い胸板を押すが、ビクともしない。背中で繋がれた両手を外そうとするが、全く緩まない。お手上げだ。そもそも自分は運動能力値がとても低いのだ。派手で強い攻撃魔法なら演唱破棄で唱えられるのに、身体強化系の魔法はどうしてか使えない。僕自身が苦手だからだろう。お陰でいつもフレイの拘束から逃れられず結局彼が起きるまでずっとこうされている羽目になる。
「むぅ……。」
フレイに抱きしめられることは、そこまで嫌というわけではない。
でも、そうして嫌と思わない自分が何となく怖くて、認めることが出来ず、いつも無駄とわかっていて踠いてしまうのだ。
彼と過ごすようになって、色んな僕を見つけた。
彼はそんな僕をいつも愛してくれるけど、そういう僕が積み重なるほど僕は彼に対して素直になれなくなっていって。
僕は彼の所有物のはずなのに。
反抗なんて、絶対にしちゃいけないのに。
どうして彼を相手にすると、頭がぐるぐるして心拍数が上がるのだろうか。
いつもより近くにある彼の顔を見上げる。
目を伏せていると少しだけ幼く見えるのだ。
朝日が彼の白髪に反射していつもより一層眩しい。
綺麗だ。
文句の付けようもなく。
ああ、また心臓がうるさくなった。
「……ふふっ、そんなに見つめられると照れるなぁ。」
「!? お、起きてたの!?」
「うん。」
その顔に見惚れていると、突然寝ていると思っていたフレイが声をかけてきた。
赤い目がそっと開かれ目が合う。
随分はっきりした声だ。寝起きのフレイはもっとほわほわしてるから、結構前から起きていたんだろう。多分、僕が起きる前から。
「起きてたのに、何で言ってくれなかったのさ。」
「ごめんごめん。俺の腕の中でもぞもぞ踠いてるウィルが可愛くて、つい。」
「悪趣味だっ。」
「拗ねないで。そんな君も可愛いけど。」
無い体力を使って頑張ったのに、可愛いの一言で片付けられ少し腹が立った。
顔をそらして、そっぽを向く。
背中からクスクスという笑い声が聞こえた。
13人がお気に入り
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:リオ | 作成日時:2017年5月19日 22時