��-19 Side:切原 ページ40
結局彼は俺のことを覚えていなかった。
「一度しか戦ったことないなら忘れるだろ、普通。三葉なら尚更。試合した覚えがあるのは幸村くらいと思うぞ」
でも真田副部長のことは覚えてた。
「まさか俺のことも覚えてるとは思わなかったが……。幸村と一緒にいたからだな、確実に」
少し嬉しそうな顔をしたと思ったらすぐに悲しそうな顔になって、いつもの顔に戻った。
あの真田副部長だとは思えないほど表情が豊かである。
あの人が覚えてなくても、俺は鮮明に覚えている。
向かい合っただけで、周りの音が聞こえなくなるほどの緊張感があった。
「あの人にとって、部長は特別なんですか？」
「三葉がライバルだと認めていたのが幸村だ。その分絆も強かった」
ライバル……
他の人はライバルだと認められていなかったのか。
俺も、副部長も……？
「あいつらの場合、お互いが存在意義だったんだよ」
目の前にいる彼の言うことが今一理解できない。
「お前、三葉のテニススタイル覚えてるか？」
テニススタイル？
当時はスタイルなど気にせずやってたから、どうだったかはよく覚えてない。
考えられないほど強かったことくらいしか。
あと、綺麗なテニスをするなってことくらい。
そういえば。
あの人は俺との試合で右手を使っていた。
けど、上の方で左手で試合をしているのを見たことがある。
彼は左利きなのに、利き手とは逆で俺との試合をしたんだ。
壊れかけていた俺のプライドがズタボロにされたのをよく覚えている。
でも、それなら、部長以外も左手で戦っているではないか。
俺が見たときの相手は部長ではなかった。
なら、どうして……
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作者名：夏生莉緒 | 作成日時：2016年9月21日 20時
