９２話/変えてくれるのは今の子供たち ページ46
「私さ、あの作家を殺したんだよね。」
聞くつもりなんてなかったから、驚いた。周囲の客たちはウタのライブで大盛り上がり、こちらの話には耳も傾けてないとはいえ、どうしてこの場で話したのだろうか。心臓が爆発するんじゃないかと思うほど煩くなる。
......だが、レイナはそれ以上何も話すことはない。しばらくしてから、また口を開いた。
「怒らないの？また、あなたたちを危険に晒しそうになったのに。」
レイナの、娘の言葉で気付く。私は他者の死をかなしまないどころか、この子に怒ってさえいない。
自分が船長だから？それとも別の理由でもあるの？と、純粋に質問を投げ掛けられ、私は戸惑う。今までこの子に怒ってなかった理由なんて、言えるわけがないだろう。恩人だから、救われたから、なんて。黙って俯くと、レイナは不満そうにしていたが、ライブは最後の十曲目に突入。周囲のボルテージが上がり、彼女も先程とは一転して楽しそうにしている。
もう気にしなくてもよいのではないか。
言■■■■■メ■■？
否。多少は嘘で固めて、本音を告げるべきだろう。勇気のない私を偽るように、この子を叱れない私の罪がまた増えることになるが。
「その復讐を、私は肯定する。すべてを肯定すると、君と初めて出会った日から決めたんだ。肯定も否定もできないまま、失った命があるからね。だから......君を蝕むものは、今後は私が消してあげよう。これからの君の復讐は、私が代行する。」
「......本気なの？」
「本気ですよ。肯定、はさすがに勇気がいりますけどね。これから時間をかけて、この言葉を本当にするんです。相手が何であろうと、もうあなたを失わないように。」
「ならさっきの砕けた口調の方に戻して。敬語ってマジで違和感しかないし......それからこれは頼み事なんだけど、今晩はスレットと二人でいさせて。子供との時間は、帰ってすぐに。私の人生、最後まで見守って。」
ああ、私は結局最後まで嘘つきと呼ばれるに相応しい人生だった。
この子の魂が軋む音を、多くの黒い影が彼女にまとわりついているのを、何も告げれなかった。おそらく本人は察してはいるだろうが。
その命が長くは持たない、または長い眠りにつくことを私は知っている。
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作者名：御法川 | 作成日時：2024年3月14日 20時
