９１話 ページ45
アンデルセン曰く。あの戦いに価値はなかったと語った。
敗者が手にしたのは、二度目の死。傍らに隠れていたリリー・カーネーションを譲渡し、槍で心臓を一突きされる。抵抗することなく絶命した。
勝者が手にしたのは、身体の一時的な機能不全。四皇ほどではなかったが、常人からすれば人知を越える戦いと呼ぶに相応しい光景だった。その代償と考えれば、軽いものなのだろう。勝者は左目を失明しながらも、敗者の死を聞かされ安堵の笑みを浮かべた。
これをアンデルセンは、物語にする価値すらないと述べる。
「理由は簡単だ。僕の好物は人の負の側面のみ。復讐劇が見れると期待したんだけど、案の定だったよ。レイナの中で形成された二つの感情は、偽りの感情。これ以上関わっても、得るものは何もなさそうだ。」
そう言って、彼は自分のいた島へと帰還した。
............後日。彼の自宅から、彼の死体が発見された。死体は八つ裂きにされており、ペンは折られ、新作と思われた小説は海へ捨てられていた。ろくな捜査もなく、犯人は彼と最後に話したとある企業の人間とされ、弁明の余地もなく縛り首とされたらしい。
絶対に裏があるに違いないと思いはしたが、昔と変わらず私には勇気がない。これ以上踏み入ることはできなかった。今、隣でウタのライブを楽しんでいる娘が、偽りの復讐心を満たしたから。
海兵との契約の隙を突いたらしい。海賊であった時の罪は除外する。市民になってから罪状が判明したとしても、あなたたちだけは特別に目を瞑ると。普段は戦況に応じて我々に命ずる優秀な船長だったというのに、偽りの心に揺さぶられて衝動的に行動するなんて。らしくないとは思ったが、勇気もなく人の心もない私のことだ。彼女に事件の詳細を聞くことはなかった。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：御法川 | 作成日時：2024年3月14日 20時
