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８９話 ページ43
心置きなく、そうか、と。何か特別な能力が備わっているのか、カンヌの視界に入ったレイナ以外の人間がその場から動けなくなっている。例外として一人、その場から逃げたようだったが。
カンヌは二人だけで殺し合える環境ができたことに喜ぶも、無論レイナは蔑むような目で彼女を見ている。再び形成された怒りと復讐心に飲み込まれることもなく、これは殺し合いではなく、負け試合だと言いながら、槍を手に両者は少しずつ距離を縮めていく。
「誰の負け試合だ？」
「......カンヌ、あなたに決まってるでしょう。私が死んだらここにいる全員を殺し、世界ごとひっくり返そうなんて企んでるだろうけど、私が死んだところで、カタクリがあなたを必ず殺す。あまり消耗させたくもないし、今すぐその息の根を止めてあげる。」
距離はおよそ、3メートル。............言葉を交わす必要は、ない。
この日、黒き月に照らされた新世界で、僅かながら小さな地震が発生した。その揺れは世界に影響を与えるようなものではなかったが、その正体を知る者は絶句しただろう。レイナは辿り着くことすらなかったはずの、カンヌは生きているうちに見ることがなかったはずの覇王色の真髄を感じ取ったがゆえに。
その戦いは、例え勝利したとしても、勝者には何も与えられないだろう。むしろ奪われるものが多い戦いを、誰も止めることはできなかった。
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作者名：御法川 | 作成日時：2024年3月14日 20時
