８８話/旅路なんて全部無意味なのだから ページ42
「私から見れば、私とあなたは同じ贋作。ロジャーという名を与えられた海賊王もどきと、どっかの老害に三度目の生を与えられた失敗作。もしこれから生きていく可能性が選ばれたなら、同じ存在のあなたと旅をしてみたい。そうしたら、消えた感情だって思い出せると思う。」
「......参ったな。船長と声は似ても似つかないのに、顔だけは本当にそっくりだ。それだけで、君の頼みが断りづらくなる。」
変わらず無表情、無感情の少女の手を、男は優しく握る。もし旅が始まらなかったとしても、黄泉の国に戻れば男は少女の傍にいるという口実ができた。二度と一人にならないように、その復讐の炎が絶えることを願いながら、その子を助けてやろうと。
＿＿＿＿＿＿＿＿少女が笑む。
感情がないはずの少女が。相変わらずその瞳は虚のままだが、不器用ながらも笑っていた。船長と変わらぬ美しさに思わず見惚れそうになる男だが、事態は急転する。
「思い出したかった。」
その一言と共に、少女の体が急激に膨れ上がり、誰が言葉を発する間も無く、少女の体は弾け飛ぶ。
臓物、血が辺りに飛び散った。目の前にいた男は血にまみれ、少女だったものがその手に残されている。
短くも長い旅路を終えた女は、絶望するよりも先に男から指輪を乱暴に奪い取り、槍を形成して構える。救うべきだったものが"殺された"という確信が女にはあった。まさにその通り、コビーが連れていたはずの何人かの海兵たちの死体の上に、死んだはずの女が立っていた。
「面白い茶番が見れた。しかしなぁ、レイナ。死体に勝手に思い出を与えようなんて困るぞ。そんなことをされては......殺すしかなくなるじゃないか。」
「カンヌ......まあ、殺す前に少し話してもいいだろうね。感情は一度捨てれば二度と形成されないと思っていたけど、間違いだったよ。今、私の中で怒りと復讐心が再び形成されている。礼だけは言っておくよ。心置きなく、あなたを殺すことができる。」
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作者名：御法川 | 作成日時：2024年3月14日 20時
