83話 ページ37
誰でも落ち着いて、深く考えれば分かることであった。
何の使命も持たず、のうのうと生きている民。もし世間から見た失敗作が自分で、正しいのが向こう側なのだとしたら、Aはこれまでの努力も、親に託された微かな希望さえも無意味なものだと知ることになる。そうなってしまわないように、Aは日々を生き続けた。
しかし現実は何度も彼女に真実を教える。家庭にも友人にも恵まれず、孤独に生きている君が間違っているんだよ、と。頼みの綱になるはずのランでさえも、遠くから見守るだけの傍観者に過ぎない。君は身分が足りないにも関わらず、叶わない夢を追い続けているだけだと。
レイナにはそう見えたのだろう。否、誰の目にもそう見えた。特にレイナは常に彼女を観察し、彼女のようになりたいと願って行動した数少ない一人。この世の誰よりもAを知るレイナであるからこその試練。とうとう普通の生活を送れなかった彼女の嫉妬と怒りの代弁者。
............それで?
弱点などない。こちらの攻撃が通る前に、彼女の攻撃は必ず自分の体を掠め、再びカウントが始まることだろう。自分の在り方さえも見つからないスレットの心は、確かに復讐者の思惑通りに蝕まれていく。
徐々に、本人でさえも気付かぬほど深淵へ。
後はこのまま堕ちていくだけ。気付いた頃には、その女の手にはあの斧が握られており、スレットの体を裂こうと振り上げられていた。
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作者名:御法川 | 作成日時:2024年3月14日 20時