７８話/第四の試練、嫉妬の庭園 ページ32
頼み事がある。誰かを睨んできたその瞳は、いつも通り優しい瞳でこちらに語りかけてきた。
今、目の前にいるのは本物のレイナ。確信したスレットが彼女の元へ駆け出す。もう少しでレイナの腕を掴める、その瞬間に空気に振動が走るのを感じただろう。先程の優しい瞳とは変わって、悲しげにスレットを見つめるレイナ。とうとう痺れを切らしたのか、クロコダイルが声をあげる。
「お前みたいな偽善に負けた覚えはねェぞ。部下に説明ぐらいしてやったらどうだ？」
クロコダイルの怒りの籠ったそれに、少々呆れ気味にレイナは会話を切り出す。
「しようとしたら、彼が走ってきたんだよ。......別に確信はない。もしかしたら脱け殻にはならないかもしれないけど、どうかな。レイナという人格は我儘らしいし、二人まとめて救いたいって想いも止められない。後は言わなくても察してよ。」
「嫌だ！！！！！」
説明する気でいると言いながら、中身は何も言わないレイナ。それでも察することができるのは、旅の過程で本当に自分の命への執着心が消え失せてしまったことぐらいだろう。
それから一人殺す度に、レイナの大事な何かが削れていく感覚もあったらしく。スレットがその身を震わせながら口を開こうとすると、優しく、悲しんでくれた瞳は、今度は蔑むような瞳に切り替わる。その瞬間に理解した。今こちらに瞳を向けているのは、レイナではなく眠りについたはずのAの人格だということに。
それは昔のように無表情で、レイナが口にしなかったことを語り始める。
「化物を人に戻したいなら、化物にない感情で呼び覚ますしかない。それは理解した。だが、救助側の体が死ぬ可能性があるってのは理解できなくてな。どうしたものかと、最初は悩みもした。しかし悩む必要がないのも理解したんだ。ああ、これはヴィアにも誰にも言ってなかったっけ？スレット、お前はレイナを愛せないんだろ？最後まで見てはいなかったが、飽きるほど見てればよく分かる。お前はレイナの中のこれに好意を向けてたことをな。」
すでに決意を固め、再びレイナにその身を捧げ、彼女を守ることを誓ったスレットには、実に酷な話だ。
彼女にはまだその意思が伝わっておらず、彼の意思を再びねじ曲げようとしている。
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作者名：御法川 | 作成日時：2024年3月14日 20時
