７５話 ページ29
奪われる側が悪い。自分達は生きるために、海賊であるがために、苛々しているから、奪うのだから。非力なお前たちが悪い。声をあげないお前たちが悪い。こちらが責められる理由などないではないか。
......それに反して、レイナ/Aは言う。君の意見には賛同する。同時に、私たちが奪われる側になった場合の話もしておこうか。私たちが何かを奪われることになったら、その時は一つ差し出すといい。今の君の意見を、君の意見に賛同した私を否定しないためにね。
子供ながら、彼女の言うことは本当に驚いた。それが通用するのは普通の社会だけで、海賊社会じゃ甘い考えなんて通用しないのに。でも船長は、まだ奪われてすらない市民に刺されたとき、同様の一つも示さなかった。
この子は確かに覚悟を決めていた。あの言葉に嘘偽りなく、市民に同等の痛みを与え、相応の資源を奪ってみせた。
でも、あの夜だけは違う。
今もレイナのすべてを蝕み、魂さえも軋ませる最悪の出来事。受け入れても傷は癒えず、ずっと彼女の奥深くに恐怖が刻まれていたと思うと吐き気がした。
今も聞こえてくる。最早声ですらない何かの音が、あの肉塊から発せられているのを。逃げた先には第三の試練と名乗る女の姿。女は全身を刃物でズタズタに切り刻まれており、腹からは彼女の小さな体には見合わない肉塊が、鳴き声をあげながら産まれ落ちる。
私はもう一度、自分の武器を強く握った。この悪夢から目を覚めるために。
......否。自分達には何も相談せず、一人でロジャーを助けるために消えたあの子へ、問い詰めるために。私は死ぬわけにはいかないのだと、何度も自分を鼓舞した。
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作者名：御法川 | 作成日時：2024年3月14日 20時
