７２話 ページ26
レイナが深く息を吸い、吐くと、彼女をここに抑えていたはずのそれは消えていた。枯れたはずの涙をぬぐい、彼女は何度も目にしてきた力強さを秘め、監獄から抜け出す。姿のないはずの騎士たちは実体化したのか、急に重く感じる体を引きずるように、彼女の後を追って王宮の外へと出る。
最早手遅れの光景。それを前にやはり慌てることなく、彼女は冷静だった。炎の奥からは赤子のような見た目をした肉塊が、こちらにその巨体を引きずってまで近寄ってくる。ママ、ママ、何度も繰り返されるその声に惑わされることもなく、レイナは即座に戦闘態勢に入る。武器も持たず、己の拳一つで。戦う理由はこの国を救うためではない。
自分の中の恐れが産み出した、幻想の国。そこから抜け出して、本来の目的を達するために。
彼らが彼女の覚悟を目の前にしたところで、再びレイナの体は灰となる。先程までレイナに近寄ろうとしていた肉塊は、四人に狙いを定めた。明確な殺意を以て。
「......お前は、本当に災難に遭ってばかりだな。本人に会えたら、まずはこの島の場所を聞き出す。船長を苦しませたのなら、生者だろうと死者だろうと同じことだ。肉片一つ残ると思うなよ......！」
「正気を失わないようにね、スレット。そりゃあヴィアもキレてはいるけど......ストレスの発散は、この気味の悪い肉塊に。ここを突破したら、次は炎に囲まれた道を走る。何となくだけど、それが正解の道だってヴィアは思うの。」
四人はそれぞれの武器を構える。スレットは依然として能力を取り戻せない状態にあるものの、戦いに異常はないと判断した。
ママを連れていく敵、ママを殺そうとする敵、ぼくたちがおまえを食べる。肉塊らしい、おぞましい呪文を口にする赤子を殲滅する。怒りに囚われず、その目的のみを見据える。
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作者名：御法川 | 作成日時：2024年3月14日 20時
