７１話 ページ25
次なる舞台。同じく例の私室ではあるが、あまりにも変わり果てていた。あの日から何度も姿を見せる黒き月、それに照れされた室内からは腐った臓物のような臭いが充満している。ベッドに固定されている鎖は、唯一の出口へと伸びている。
鎖が届くギリギリの距離に立っているのは、最早涙すら枯れたレイナの姿。その正面には、水晶玉を持つローブの少年。自分達の姿は透明で、彼らに触れようにも触れぬ状況であった。
しばらく二人の会話は聞こえなかったが、突然少年の言葉が耳に入る。
「ロジャーという方より失われたもの。それをあなたが捧げれば、人間という形を取り戻したロジャーは元に戻るでしょう。魂が黄泉へ戻るか、現世に留まるかは、さすがに彼次第です。その代わり、あなたは五人を贄に捧げなければならない。あなたの中に眠る五人の人間、呼び覚ますにはあなたの関係者を精神の奥深くへ誘う必要がある。あなたにはその覚悟がありますか？」
少年の目が、光を灯したような気がした。
比喩表現ではなく物理的に。全員にそう見えた。レイナは少年の問いに対し、覚悟ならあると言い切る。下手すればあなたの関係者が贄となると言われるが、私の悪友どもはそう脆くはないと言った。少年はその事場に安堵したように、花畑のレイナと同じように灰となって消えていく。
夢の世界。私の負の資質が作り上げた、不自由な国。誰もいなくなった部屋で、独り言を繰り返すレイナ。もし彼女の言葉を真に受けるなら、今まで彼女が居た場所は。
考察する時間すら与えられる間も無く、外から爆発音が響いてくる。スレットとヴィアには聞き覚えのある音、サボを含めた三人が見覚えのある光景。人々を焼き尽くす炎、快楽のために人を殺す実行犯の高笑い。レイナはそれに動じるわけもなく、未だ自分を縛り付ける鎖を、憎たらしく握り締めるだけだった。
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作者名：御法川 | 作成日時：2024年3月14日 20時
