６４話 ページ18
「......？私の騎士、首の怪我はどうしたの？包帯が巻いてあるわ。すぐ隣に行きたいのだけれど、ごめんなさいね。そろそろ子供が産まれそうで、動けないの。」
首を落とされたはずのサボが首に手を添えると、確かにそこには包帯が巻かれている。あの時視界が地に落ちた瞬間、その感覚。それらは紛れもなく現実のものであった。自分の命はここで潰えないと、謎の確信があったにも関わらず、その確信が失われた今は死を恐れている。どうしてあの時、証拠もない中そんな確信ができたのだろうか。
だがそれ以上に、騎士の体に引っ張られているのだろうか。そんな難しいことを考えるより、今は陛下の身を案じよと言われているような気がするらしく。目を合わせれば憎まれ口を叩くようなクロコダイルも、その口を閉じている。一見呑気そうな女王も、その異様さに気付いたらしい。
「あなたたちは......いつ、自分の言葉で喋れるのか。それが分からないのね。本物の騎士じゃないのね。だって、記憶力に自信はある。あるのよ、私。それがあなたたちと初めて出会った日だけが、どうしてか霧がかかっている。あなたたちの本来の顔さえ、声さえ思い出せない。本当に、ごめんね。」
今のあなたたちも、誰かに重ねているようで辛い。泣きそうになる彼女に触れようとしたとき、彼女が言う。
「助けて......スレット......」
「......は？」
スレット。確かにそう言った。
同名の男か？女か？レイナという、上の立場の者が助けを呼ぶ人間だとすれば、それは親しい人間。しかしここまで名前が一致してしまえば、彼女を別人と割り切るにも無理がありすぎる。加えてこの妙な空間には、どこか懐かしさを覚えていると、スレットが言った。
途端に彼女が苦しみだし、気付けば私室には産科医やら助産師やらが集まっている。スレットは改めて、彼女の苦しそうな顔を見つめるだろう。別人だと割り切らなければいけないその人は、紛れもなく
■■■、その人だ。
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作者名：御法川 | 作成日時：2024年3月14日 20時
