第八十九章 ページ39
No side
敵国に拉致された。
女は確かに、はっきりとそう言った。
何故この女がそれを知っているのか。
その確証がどこにあるのか。
そんな疑問さえ抱かない程に、幹部は全員が一瞬にして言葉を失う。
目を見開き、ふらつき始める者もいた。
女は言葉を続ける。
「私の責任でございますっ!!ですが、今は一刻も早くA様を、A様を……!!」
訴えながら、女は崩れ落ちた。
それを、駆け寄って支えたのは女の帰りを心配していた同じ使用人の二人。
その二人に構う暇もなく、女は頭を下げる。
「申し訳ございません申し訳ございません申し訳ございません……私のせいで、私の、申し訳、ございません……どうか、どうかA様を………」
掠れ、薄れていく女の声。
数秒後には、女は動かなくなっていた。気絶したのだろう。
グルッペンが椅子から立ち上がり、女を支える二人に告げる。
「すぐに医務室へ」
そしてこの部屋から女も警備兵も追い出す。
少しの間の、沈黙。
女の言葉を脳内で繰り返し、理解、理解、理解……。
そして、グルッペンは力なく椅子に座った。
いや、脚に力が入らなくなり、座り込んだという方が正しい。
トントンも、俯いて何も言わない。
棚に背を預け、放心状態に近い状態だった。
「……」
攫われた。
何よりも大切な彼女を。
敵国に。
敵国。
この言葉をこれほどに忌々しく感じたことはないだろう。
「……ど、にだ」
これほどまでに、理性を失ったことはないだろう。
「愚かにも手を出してきたのは何処の国だッ!!?」
これほどまでに、怒りの感情を抱いたことはないだろう。
「消し去ってやる!!この世の全ての苦しみを与え生物としての存在価値を奪ってそいつらをッ!!!!」
威圧。
国の、人の上に立つ者としてのそれは長い付き合いの幹部たちでさえ畏怖する。
敵国は本当に愚かだった。
敵国は本当に無知だった。
我々という国は、女一人攫った程度では何もしてこない。
本気でそう思っていたのだ。
それは正しくもあり、同時に間違いでもあった。
女一人。
たかがそれだけ。
しかし。
その女が我々国でどのような存在か、彼らは知らない。
部外者が絶対に触れてはいけない、不可侵の存在。
あぁ、戦争が始まる。
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リノ(プロフ) - 綾波夜見（自宅パソコン）さん» コメントありがとうございます。イラつく女を書くのは個人的に楽しかったです(笑)ありがとうございます！！ (2017年9月29日 21時) (
レス) id: 02182e081c (このIDを非表示/違反報告)
綾波夜見（自宅パソコン） - イラーナさんにものすごくイラつきました←そして、そんな女にプレゼントしている鬱先生にも← いつも楽しく読んでいます！！更新のほう、無理しない程度に頑張ってください！！応援してます！！ (2017年9月29日 18時) (レス) id: 624c95f6b5 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：リノ | 作成日時：2017年9月6日 21時
