#37 ページ37
『ゆりうすっ！？そこまで近づかれるとっ……死ぬ……！』
Aの抵抗も虚しく、暴れていた両手をユリウスによって抑えられた。そして手を指先まで移動させ、自然と恋人繋ぎになる。彼の熱い視線に釘付けになり、Aは抵抗するのを諦めた。
「普段と雰囲気が違うな」
『髪、結ってないから……かな』
「瞳が、潤んでいるのは、何故だろうか」
『それは……ユリウスのせい』
ゆっくりとまた両者の顔が近づいて、吐息まで感じる距離になった。それでも尚、ユリウスは余裕たっぷりだ。普段より緩やかな表情なのはAの気のせいなのか。
ようやくそれとそれが重なった時、Aの瞳から1粒雫が流れた。
ぎこちなく舌が絡むが、決して嫌な感じはせず、Aは幸福でいっぱいになった。
『……待ってても良いんだよね』
「ああ……必ず、必ず迎えに行く」
欲しかった言葉をくれた彼を信じよう。
王戦は何年もかかる一大イベント。国の未来を決めるため当然である。それでも、好きな人を待つことにした。
――この時だけはあの、悪魔のことを忘れることが出来た。
――
「Aとユリウス、そんなに仲良かったんやね」
「……！アナスタシア様」
Aが眠りについたのを確認したユリウスは、扉を開けた少女に目を向ける。ユリウスが騎士として仕えているアナスタシアだ。
「A、他の男に取られへんとええね？」
「それは……」
「“ナツキくん”とか」
「……」
口元に人差し指をあて、意地悪そうにアナスタシアは言う。確かにAの同郷であるナツキ・スバルとの関係が気になっているのは事実であった。
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作者名：R | 作成日時：2016年9月12日 0時
