#36 ページ36
「言いたく、ないか」
『ごめん……』
壁にもたれかかって話を聞いていたユリウスだが、今度はAのベッドに向かって歩き出した。
「腰掛けてもいいだろうか 」
『……』
無言で頷くと、ユリウスは優しく笑みを浮かべながらベッドに座った。そして、窓越しから月を見上げた。
「君が、心配なんだ」
『ユリウス――その感情に、名前はないの？』
この間、2人で抱きしめあった時もそうだ。はっきり言わないユリウスに酷く心が痛くなった。
どうして、恋人でもないのに優しくするのか。どうして、気にかけてくれるのか。Aには分からなかった。Aの気持ちを同情として受け入れるくらいなら、自らこの感情捨てる気でいる。
「――王戦が終わるまで、待ってはくれないだろうか」
『長いよ』
「理解はしているつもりだ。だが私は――」
『……それなら』
最後まで聞くのが怖くなり、遮るように声を絞り出す。ユリウスもそれが分かったようで、口を閉じた。
『絶対、お嬢を王様にして』
「……！ああ、必ず」
騎士服の袖を軽く引っ張られ、思わず振り返ったユリウス。瞳を細め笑みを浮かべている少女の瞳は、ユリウスを捉えており、さらに月が反射してとても美しく見えた。
――その瞬間、Aの視界が反転した。
『わっ！？』
「……その顔は、私だけにしかしないと約束してくれないか」
視界に想い人が映っているだけで、心臓を鷲掴みされたように苦しいのに、今は吐息が聞こえるくらい近い。
そこでようやくユリウスに押し倒されていることに気がついた。
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作者名：R | 作成日時：2016年9月12日 0時
