Yellow daffodils * ky * (ページ19)

今日:5 hit、昨日:1 hit、合計:6,910 hit

二輪ページ19

それから、そこに通うこと１ヶ月、特に会話もなく挨拶だけの普通の客と定員をし続けていたある日

いつもレジを打ってくれる女の子の指にいくつかの絆創膏が見えた。
4箇所ほどに貼られた絆創膏を見て、痛そうだと、眺めていれば自然と声が出た

「手…怪我したんですか。」

俺が口を開けばピタリと彼女は動きを止める。
前にも見たそれに今度は不思議に思うことも無く、眺めていればどことなく気恥しそうに手を引っ込められた

『あはは…ダンボールで知らないうちに切っちゃってて…すいません、お恥ずかしいところをお見せしてしまって』

「いや、全然…その………無理はしないように…」

ありがとうございますと、柔らかく笑う彼女に思わず視線を逸らして頭を軽く下げて帰宅した

それからというもの、他愛のない話をするようになった

お互いお仕事お疲れ様ですから始まって、天気の話だったり、新しく出た菓子の味だったり、ゲームの話だったり。

「やっぱり知ってたんですね」

『そりゃぁ…ブレーキで有名ですから』

「えっ、そっち…？」

『ふふふ、』

レジを打つ短い時間の間で紡がれる会話がなんでか心地よくて、かと言って仕事の邪魔もできない

けど、もう少し話したい

そんなふうに思ってしまった俺は人生初めてなんじゃないかと思う行動に出た

『ありがとうございました』

「あ、の………」

『…はい？』

「もし、よかったら…その、連絡先、交換とか…って、だめです………………よね、」

沈黙が怖い。
ヤメロやめてくれ…いや俺が悪いんだけど…
目を丸めて固まる彼女の視線がなんだか怖くて、目を逸らしてしまう。

すると彼女は動き出し、裏へと引っ込んでしまった

まぁ、そうだよな。

俺は唐突に何言ってんだ、これじゃあその辺のなんぱ野郎と変わらねぇよ
心の中で溜息をつきながら外に出れば ” お客様 ”と呼び止める声がして、振り向けば

店を出てすぐ慌てて出てきた彼女の姿が目に飛び込んだ

「…あ、さっきはすいません、変なこと言って、忘れて」

『これ！』

ずいっっと掌に握らされた紙を見てみれば、何かのIDだ、何か、なんて分かりきってるけど

『私のIDです…、もしよろしければ。それでは気をつけて帰ってください』

1連の出来事に放心状態でいれば、彼女は店の中へと戻っていく

シワにならないように、しかし、きゅぅっとその紙を握りこみ、嬉々とした気持ちでその日は帰宅した