恵まれた子 ページ20
緑谷から空気を切るような音と共に
風圧が試合会場に広がる
そして緑谷の足は場外に出なかった
『…！！』
sp「個性を解いた…？」
cn「うそやん…？」
マイク《踏みとどまったァァー！！》
観客の歓声が熱くなる
クラスメイトたちもホッと息をついた
対して心操は破られるとは思っていなかったのか
焦燥感に駆られた表情で緑谷に問いかけた
心操「身体の自由は効かないはずだ！
何したんだ！？」
だが緑谷は口に手で塞いで
答えないように抑える
心操「…何とか言えよ。指動かすだけでそんな威力か」
自身へ走ってくる緑谷に被虐じみた言葉を投げる
それは焦りからか、劣等感からくるものか
心操は心からの叫びも交えて、
緑谷に口を開かせようとするが…
心操「羨ましいよ！
俺はこんな個性のおかげでスタートから遅れちまったよ！
恵まれた人間には分からないだろう！」
緑谷は答えないまま走る
心操「あつらえ向きの個性に生まれて！
望む場所に行ける奴らはよお！！」
お互いに苦しそうな表情で
ついに彼らの距離はゼロに等しくなる
そして緑谷は個性も使わず、心操をそのまま押し出そうと
彼の肩に手を、腕を胸板に押し付け、走り続けた
しかし心操がされるがままというわけにもいかない
何か言えよ！と緑谷を殴るが、
彼はそんなことでは怯まないのを私は知っている
鼻血を出しても緑谷は心操を押し続け、
腫れあがった指を殴られても、
場外まであと少しという所で避けられても
心操の腕をつかみ、場外へ背負い投げを決めた
ミッド「心操くん場外！緑谷くん二回戦進出！」
試合終了の合図に
私は微笑んで拍手を送った
さて、心操の元へ行こうかと
立ち上がって彼が居る元へ足を運んだ
マイク先生の実況と歓声を背に
トンネルの中へ入った……
――コツ、コツ。
廊下で探すように見渡しながら歩いていると
ポケットに手を突っ込み、
俯いて歩く心操の姿を見つける
『心操』
心操「…なんだよ。慰めでもすんのかよ」
『…おめでとう』
一瞬、頭がぼやけたと思った…が
すぐに解けたようだった
私が素っ頓狂なことを言ったからか
心操がは？とこぼして目を見開いて私を見ていた
心操「なにそれ、皮肉？」
『いいや、個性の改善点が見えたじゃないか
それに…対戦相手の緑谷は嫌な奴だったか？』
彼は怒りが湧き出しそうだったが
私の言葉の意味が分かったようで、ハッとした
心操「アイツと戦わせようと…？
やっぱアンタ嫌い」
『ふふ』
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作者名：飽き性 | 作成日時：2020年5月27日 21時
