感情と花の毒 (ページ8)

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那須は、誰かに踏み潰されてぐしゃぐしゃになった花のようにも、栄養不足で枯れた花のようにも、なっていなかった。

ただそこには、いつもと変わらない、白い肌、この世の全てを見透かしているかのような唇があった。

足に力が入らない。僕は思わずその場に座り込んだ。

「龍我、大丈夫？」

浮所が心配そうに僕の顔を覗く。

那須はまるで、その美しい見た目を保ったまま凍らせた薔薇の花のように目を閉じている。

僕とは不釣り合いの、「月とすっぽん」。

もっと言うなら、「美しい薔薇と枯れた雑草」のようだ。

無論、僕はそれでいいと思っている。

いや、むしろそうでなくてはいけない。

こんな僕に愛を注いでくれる那須は、僕の暗闇を照らす、唯一の光なのだから。

「那須、起きないね」

もう眠ってから四時間は経っているのに。

「ま、もうすぐ起きるって」

浮所の発言の無責任さに、カチンときた。

でも彼には、悪気がないのだろう。

深呼吸をする。保健室の、薬のような不自然なにおいが入ってくる。

空はもう、暗くなり始めていた。

時計に目をやれば、６時を過ぎている。

「浮所は、帰らないの？」

大昇はあの後、塾があるから、と言って帰った。

別になんとも思わなかった。

「うーん、僕は残るよ。どうせ暇だし」

少し小さな溜め息が、彼の周りから聞こえた。

気のせいだろうか。

「疲れた？」

「まあ、少しね」

「じゃあ、そこの空いてるベッドで＿＿」

「いいよ」浮所がひらひらと手を振る。

珍しく彼が断るのを見た。

本当に何があったというのだ。

「そ。でも那須が起きなかったら」

「俺は明日の朝までいてもいいけど」

どうしてそこまで。

だって君は、那須に一番苦しめられたはずなのに。

「龍我こそ、寝たら？」

「え、でも＿＿」

「ね、いいから、ほら」

背中を押されて僕は、那須の眠るベッドの隣で、眠りについた。