感情と花の毒 (ページ5)

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ふらふらと廊下を歩いているうちに、チャイムが鳴った。

昼休みも終わり時間のようだ。

先程教室に戻った時に、荷物は持ってきていた。

空き教室に入る。

ここが、最後の隠れ家と言っていいだろう。

鍵はかかっていない。

扉を開けると、古くさい臭いが鼻をつく。

静かに奥の、いつもの場所に座ろうとしたときだ。

少し離れた場所から、すすり泣く声がした。

見ると、肩にかかるほどの髪で顔を隠し、膝に顔を埋めている少女がいた。

もしかして、と思う。彼女は先程、ぶつかってきた人ではないか。

「......何、してんの。こんなところで」

よく見ると、肩をひくつかせていた。

呼吸が乱れるほど泣いたのだろうか。

彼女はゆっくりと顔を上げる。美しいな、と反射的に感じる。

「......え、あなたはさっきの、龍我くん？」

震える声で言った。予想が的中する。

「やっぱり、君か」

僕は名前を知らなかった。

教室の隅で泣いている彼女の状況は「普通」ではないのだろう。

そして「普通」でない状況の彼女を見つけてしまった僕は、「普通」なら彼女を救うべきだろう。

「どうして、ここにいるの」

気付けば、そう言っていた。

「それは......」彼女は目を泳がせる。

「消えたくなったから？」

彼女の目が見開いたのがわかる。

僕はまた、「普通」でないことをしてしまったのだろうか。

すると、彼女が小さく頬笑んだようだ。

「......龍我くんって、変わってるね」

「え」

「初対面の人の気持ちがわかるなんてさ」

彼女は立ち上がった。

「私、A。これからはもう友達だから」

とだけ言い残し、ポツンと立ったままの僕を置いて、帰ってしまった。

落ち着けるはずの場所が、まったく落ち着かない。

そうして僕は、胸の内側に暖かいものを感じた。

「これからはもう友達だから」その言葉が脳内で反響する。

まるで、僕の頭の中にあった四角いままの固形バターが、一瞬にして溶けるような、そんな感じだ。

この感覚は生まれて初めてで、那須といるときには感じなかった別の何かを感じた。

きっと僕は、その溶かされたバターで、何かを作らなければならないのだ。